将来像−ナノテク未来地図インタビューより

燃料電池は触媒、膜、セパレーターなどの要素技術の開発に加え、水素の供給システムの整備や、水素の生産に伴って発生する二酸化炭素をどうするかの問題が未解決である。その観点からすると、太陽電池や太陽電池車の方が先に普及するかもしれない。色素増感型のスプレー式太陽電池については、増感剤である有機色素が太陽光線下で褪色するので、寿命の問題が解決しなければ普及は難しいだろう。ユビキタス社会は実現できるだろうが、その必要があるのかどうか疑問である。入ってくる情報量は膨大になっているが、人間の考えるスピード、判断するスピードは変化していない。いわゆる無駄な時間というものは人間の生産性を上げるためには凄く重要である。食糧の生産技術や廃棄物の処理技術は飛躍的に進歩するかもしれない。再生医療はある程度普及するだろう。それよりも地球温暖化による気候変動の方が人類の生存にとって大きな問題になるかもしれない。これを解決できる科学技術を産み出すか、あるいは昔の生活に戻るかの選択をせまられる時期が来るかもしれない。
(渡辺敏行さん)

環境ホルモンやシックハウス症候群の問題がある。キレる若者が問題となっているが、農薬の高濃度散布により、身体の中で麻薬物質に近いものの活性を抑える酵素をキャッピングしてしまうといったことが原因かもしれない。建材の中にも不燃材の中にも入っているリン酸エステルなど、新しい化学物質がナノレベルで問題となる可能性がある。
(阿尻雅文さん・梅津光央さん)

太陽光発電もたとえばナノテクであるが、バッテリーを小さくすれば面白いことが起きる。手段としてナノテクを考えればよい。
(山本健二さん)

空気清浄機や酸化チタン加工の衣料・日用品が普及すれば、有害なナノ粒子の体内への侵入を防げるかもしれないが、同時に人体の免疫システムに必要な微生物なども防いでしまう。これにより肺の免疫機能が低下することが考えられる。アレルギーを抱えた人はこれからも増えていくだろう。
テーラーメイド医療について、率直に言って医者はそこまで暇ではない。現場の人間は日々の医療で手一杯である。病院は人員が足りない。大きな施設を抱える病院であればできるかもしれないが。医局制度の廃止や研修医制度の変化は、良い面もあったが問題もある。医師たちは、徒弟制度は技術的な伝承の点である程度必要だと言っている。他の分野でも技術伝承は問題になっているが、医療の場合は個人個人が相手である。どういった人にどういった対応をして治療を施すかという部分は徒弟制度で培われた部分も大きかったのではないか。この先20年後に医療体制がどうなるのか、ということは心配である。
(鈴木和男さん)

フラーレンは新しい基本分子であり、本質的で根源的な新素材だと思っている。少なくとも今世紀終わりにはあちこちで使われていると信じている。三次元的な空間をデザインする新しいアプローチであり、フラーレンをスターティングマテリアルにすることでこれまでできなかったことができるようになるだろう。一方で、省エネルギー、省資源、新エネルギーを考えると、フラーレンは非常に向いている。CFRPもそうだが、フラーレンをわずかに加えるだけで機械的な強度を改善するため、多量の材料や高い材料を使わなくて済む。フラーレンを構成する炭素はありふれた元素である。インジウム、プラチナなどと比べて日本の元素戦略を考える上でも、炭素を使うのは本筋である。世界的に見ても、ありふれた材料を使って機能を発現できるシステムこそが社会に永続的に必要とされる技術だと思う。フラーレンは燃焼すれば最後はきれいになくなってしまう。今後のわれわれの生活の快適性・安全性・持続性といった流れにマッチしている。
(村山英樹さん・木下隆代さん)

小さくなるというのは、ものが少なく、動かすものも小さくて済む。極論すれば、東洋では素材の持っている本質をそのまま切り出す。それは自己組織化の考え方だと思う。ナノテクでも今はトップダウンで、加速器を使ったりレーザーを使ったりして、だんだん大型になり、力業の世界に入って小さなものを作っている。自然を切り出すという思想からすると違うのではないか。究極のものづくりとして、必要最小限の部品で必要最小限のエネルギーで組み立てられる、というのができないか。その意味で、生物は精巧に組み立てられた良いお手本であるが、エンジニアリングとして発展させるためには単純にそこから学べば良いというものでもない。
(亀井信一さん)

特にエネルギーや環境の分野が大事になっていくと思う。石油に限りがあるわけだから、それに頼るのではなく、新しいエネルギー戦略を構えていかなければならない。これもある程度ナノテクで貢献できるだろう。太陽電池は普及しているが、燃料電池の普及はまだまだである。ただ可能性としてはかなり高いので、あとは水素をどう取り扱うか、ということで国がどう力を入れていくかが課題だろう。地球温暖化問題では、CO2を出さないというのは大前提である。世界中で騒がれている以上、日本はアセスのリーダーとして率先してやっていかなければならない。少なくともアジアの中で主導していかなければならない。これは国家戦略で最優先課題として考えなければならないだろう。
(甕秀樹さん)

DDSで臨床でやっているものに関しては投与量を減らせる、というところに近づきつつある。ターゲットが多く、治すべき病気がいっぱいあるので、それぞれによって変わってくるところがあるが、ガンならガンで一つ開発できればそれに続くものが開発できるだろう。今のところの問題として、認可が出るのが遅いというのもあるが、手術で治るものは手術でやった方が良いというのがある。だからDDSと手術の両方を併用するという可能性がありうる。しかし今のところは、他に手だてがなくなったという人以外、DDSを入れてくれないのではないか。単純なDDSを効かせるだけでもまだ難しい段階であり、テーラーメイド医療への適用はもう少し先の課題だろう。DDSは普及してくれば一個人に対して使う量は抑えられるので、薬剤の価格自体は下げられると思うが、それよりも大きくかさんだ開発コストの回収が問題だろう。
(岸村顕広さん)

カーボンナノチューブができたときに何に使えるか。シリコンに代わる、応答性が速く高密度の半導体が考えられるが、実用化は数十年先かもしれない。身近で安い使い方はプラスチックに混ぜて強度を上げること。自動車や飛行機のボディを軽くしてエネルギー効率を上げられるかもしれない。また、燃料電池やリチウム電池、キャパシタの電極としても研究されている。ディスプレイの透明電極材料として今はITO(Indium Tin Oxide)を使っているが、そのインジウムが不足している。ITO代替としてナノチューブが使えるのではないか。潜在的に大きなマーケットである太陽電池の透明電極として、他にフレキシブルな電子部品や、銅配線の代わりとしても考えられる。一つ重要な点としては、こうしたモノを炭素という一つの元素の形を変えるだけでまかなえるかもしれないこと。これがナノテクのポテンシャルだと思っている。マクロな視点、サステナビリティという点では重要である。稀少元素を使うと資源が枯渇するという問題もあり、せっかく自然界が長年かけて濃縮してきたものが混ざり拡散する。混ざってしまうとリサイクルがうまく回らなくなる。サステナビリティとして再生可能エネルギーが重要であるが、太陽電池かバイオマスが有望ではないか。ナノチューブの医療・バイオ的な応用も盛んに研究されている。
エンハンスメント(治療目的を超えて人体を医学的に能力増強すること)の考え方については、倫理上の問題や、地球規模で資源やエネルギーが足りない状況もあり、個人的には興味がない。それよりも、世界全体がある程度のレベルの生活を送れるような技術に興味がある。
(野田優さん)

アメリカのナノテクのオピニオンリーダーであるMihail C. Rocoが言うように、短期的には10年間でナノサイズに特化したナノテク関連の産業も学問も栄えるだろうが、出尽くしてしまうであろう。30年ぐらい後に自己組織化、自己アセンブリなどの分野で目覚しい展開が見られるであろうと推測している。私もこの分野でブレイクスルー、あるいはパラダイムが生まれて全く不連続に新しい展開が生まれるかもしれないと考える。分子と分子を組み合わせて新しい機能を出すというところがナノテクの本質であり、サイズが小さく少量で機能が発現するというのは、環境の面でも悪いことではない。だが、どのように管理していくかというところが問題である。一方、ナノテクのエッセンスの部分はライフサイエンスと一体化し、一歩間違えると大きなリスクを負うことになる危惧は、欧米の識者の共通認識であることも忘れてはなるまい。
(五島綾子さん)

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