・ナノテク(ナノ粒子・ナノチューブ)とは何か?
ナノマテリアルの質の部分や、それを使って何かデバイスや応用製品を作る、というのもナノテクの一つだと認識している。ナノテクを難しくしているのは、いくつか軸があるからだと思う。加工(物を作る)、材料、材料システム、デバイス、応用製品、社会システム、という流れがある。これは一つの軸だと思うが、技術の実現時期、消費者からの距離、物理的インパクトの大きさ、などの軸も考えられるだろう。
・ナノテクに関する取り組み
先端科学研究センターでは、ナノテクがどのように役に立つのかを研究している。われわれが「分子ナノテクノロジー」という言い方にこだわっているのは、トップダウンでなくてボトムアップによって、今までの技術の延長線上ではなく、新しい指導原理、物理法則に則って、ブレイクスルーやイノベーションを切り開くことが必要であると考えているからである。われわれの仕事は、今は現実的な方向に行っている。個々の技術ロードマップの作成などであり、軌道に乗ってきたと思うが、これでいいのかという危惧は正直ある。
・将来像
小さくなるというのは、ものが少なく、動かすものも小さくて済む。極論すれば、東洋では素材の持っている本質をそのまま切り出す。それは自己組織化の考え方だと思う。ナノテクでも今はトップダウンで、加速器を使ったりレーザーを使ったりして、だんだん大型になり、力業の世界に入って小さなものを作っている。自然を切り出すという思想からすると違うのではないか。究極のものづくりとして、必要最小限の部品で必要最小限のエネルギーで組み立てられる、というのができないか。その意味で、生物は精巧に組み立てられた良いお手本であるが、エンジニアリングとして発展させるためには単純にそこから学べば良いというものでもない。
・ガバナンス(政府の政策や大学・民間でのマネジメントのあり方)
日本も2001年に第二期科学技術基本計画でナノテク・材料が重点分野に入ったが、良い意味でも悪い意味でも当初期待していたような世の中を震撼させるようなものがなかった。科学技術基本計画ではスパンが短いのだろう。ナノは微細な加工技術だから、マテリアル、デバイス、応用、といろいろなステップがある。三年でできるのであれば、産業界が独自にできる。プラットフォームをどうするのか、社会的な要請やアクセプタンスをどうするのか、というところを議論するべきなのに曖昧になっている。大学も産学連携という流れになっているが、大学が次の新しい技術を満たすような技術のシーズや知的基盤を見つけるような体制にはなっていない。
ナノテクとは基本的に省エネ・省資源の技術だと思う。日本では資源もエネルギーもないので、まさに日本の技術だ。日本ではこれまでとは違ったやり方、ミッションの達成に最適なやり方にするべきだろう。研究開発の方針の中で、「最大エネルギー効率をもたらすものは日本は絶対に負けない」とか「小さい加工技術は負けない」というのがよっぽど分かりやすい。今の科学技術基本計画で不満なのは、重点八分野というが、それに入っていないものを見つける方が難しい。日本には基軸というか国是がない。
・リスク
基本的にはナノテクは予知できない。だからどういうリスクがあるのかも正直に言えば分からない。だがアメリカの国家ナノテクノロジー戦略(NNI: National Nanotechnology Initiative)では、分からないところでどうするか、という議論を真剣にやっている。未来技術のインパクト、社会的な影響評価をしている。なかなか日本ではそういう議論は聞かない。
・社会とのコミュニケーション
日本ではナノテクの社会的・倫理的問題にあまり取り組んでこなかったと思う。対してアメリカでは社会を変えるポテンシャルを持った技術であるとしっかり理解していた。あとは成果を結実させる義務、成果を開示する義務、どういうインパクトがあるのかを説明する責任も持っていた。アメリカでもヨーロッパでもしっかりしているフレームがあり、その中で社会的な影響や倫理を議論することができる。日本では細かくて分かりにくい。また、日本では実現した人が偉くて、未来学者のような新しいコンセプトを提示した人をあまり尊敬しない、というのがある。ビジョンを描くのは正直日本人は苦手であると思う。だが、何か目標が見えていてそれを実現する、という時代はもう終わったと思う。ニーズからビジョンなどを出していくべきだろう。
(2007年7月25日インタビュー)
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