ナノテク未来地図インタビュー−鈴木和男さん(千葉大学大学院医学研究院免疫発生学・炎症制御学教授)

・ナノテク(ナノ粒子・ナノチューブ)とは何か?

ナノ粒子の体内への蓄積については従来の化学物質と話が変わらないわけではない。金属のナノ粒子を対象にして考えているので、金属であれば体内で分解するのは難しく、蓄積してしまう。そうした粒子は4nm〜10nmのオーダーである。


・将来像

空気清浄機や酸化チタン加工の衣料・日用品が普及すれば、有害なナノ粒子の体内への侵入を防げるかもしれないが、同時に人体の免疫システムに必要な微生物なども防いでしまう。これにより肺の免疫機能が低下することが考えられる。アレルギーを抱えた人はこれからも増えていくだろう。
テーラーメイド医療について、率直に言って医者はそこまで暇ではない。現場の人間は日々の医療で手一杯である。病院は人員が足りない。大きな施設を抱える病院であればできるかもしれないが。医局制度の廃止や研修医制度の変化は、良い面もあったが問題もある。医師たちは、徒弟制度は技術的な伝承の点である程度必要だと言っている。他の分野でも技術伝承は問題になっているが、医療の場合は個人個人が相手である。どういった人にどういった対応をして治療を施すかという部分は徒弟制度で培われた部分も大きかったのではないか。この先20年後に医療体制がどうなるのか、ということは心配である。


・ガバナンス(政府の政策や大学・民間でのマネジメントのあり方)

医療関係では、新しい分子が出てきたときにその毒性を調べる。現在の日本では臨床研究で有効性が確認されれば認可しているが、外形標準など新たな科学の方法論とともに、今後そうした許認可制度を変えていかなければならない。
ナノ粒子の労働被曝についてであるが、目に見えない曝露がある。煙と同じような感じで被曝するのもある。アスベストでの過ちを繰り返さないようにしなければならない。ただ、厚生労働省にはこうした労働環境についての目配りをするだけのキャパシティがない。また予算を獲るときが問題であり、目に見えないような話については財務省がOKを出さない。アスベストの時も、健康被害の問題が起こったらどうすると一部の研究者が数十年前から指摘してきた。ナノについても一部の研究者は指摘している。だが、慢性的に起こる症状、何十年も追跡しなければいけないようなものに対して研究することは非常に難しい。こうした将来のリスクに対しての研究を進めるには研究者の自発的な活動に任せるのではなく、まず助成金のあり方を見直すべきであろう。政府や政策研究者が全体像というものをきちんと分析し、研究費のあり方を変えることで研究者に対してこうした問題に取り組ませる形がいいのではないか。


・リスク

ナノ粒子の検出であるが、今は蛍光物質で調べており、できないことはない。ナノ粒子を体外に排出できないときにどう処理するかについては問題である。技術としてDDSはいい方向である。これも排出の問題がありリスクも伴うのであるが、得られる効果との兼ね合いであろう。病気になったときにどう使うか、という判断をする必要がある。たとえばどういうリスクがあるのかというのは分かっていることがある。どういう治療効果があるのか、リスクも含めて患者や家族にきちんと説明しなければならない。これについてはナノだからということはなく、ごく微小な分子をコントロールするということでは従来の治療の話と変わらない。予測できないリスクがあることも同様である。


・社会とのコミュニケーション

倫理問題をどういう形で議論し取り組んでいくかについては、難しい話である。ただ一つ気になっているのは、この問題に周囲が過剰反応していることである。これに関し、最近では医者の悪い面がクローズアップされてしまっている。マスメディアも加担していると思う。これでは、医者は新しいことに二の足を踏んでしまう。先のテーラーメイド医療なども成り立たなくなるだろう。大学は高度な医療をやることが当然であり、それに躊躇するようであると日本の医療が衰退していくことになる。もう少し良い倫理体系を作らないといけないとは思うが。

(2007年6月26日インタビュー)

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