・ナノテク(ナノ粒子・ナノチューブ)とは何か?
ナノ粒子をどう定義するか、標準化について考えなければならないが、今の段階だとせいぜい材料系と大きさぐらいしか見ることができない。100nm以下で見るか、物性だと10nm以下で量子効果が出るので、これを基準にできるかもしれないが、分類する人と、使う人は考えが違う。また、中身だけでなく、表面の官能基も見なければならない。ほとんど同じ大きさ、同じ分子量でも、ちょっと官能基がついただけで毒性が大きく変わる可能性がある。大きさの範囲だったらクロマトグラフィーなど今の技術でもできるだろうが、こうした官能基などを検出できるかというと、まだ難しい。生体への影響とその検出は同時に進めていかなければならないだろう。ニワトリと卵の関係で、いろいろなナノ粒子が揃わなければ検出ができないしリスクも分からない。
・ナノテクに関する取り組み
ナノ粒子には複合材料の可能性があり、一つはバイオ分子とのインタラクションである。バイオ分子しか認識できたいものをプロテインの中に導入している。もう一つは医療応用である。ナノ粒子を分子のように扱い、光る造影剤や、X線やMRIで感応する物質を開発している。
・将来像
環境ホルモンやシックハウス症候群の問題がある。キレる若者が問題となっているが、農薬の高濃度散布により、身体の中で麻薬物質に近いものの活性を抑える酵素をキャッピングしてしまうといったことが原因かもしれない。建材の中にも不燃材の中にも入っているリン酸エステルなど、新しい化学物質がナノレベルで問題となる可能性がある。
・ガバナンス(政府の政策や大学・民間でのマネジメントのあり方)
化粧品など身体に直接塗るものや、医薬にはならないが健康食品になるものなどの審査が甘いものがあり、問題だろう。今までμmサイズという細胞の大きさだったものが二桁小さくなって数nmになったとき、金属・プラチナなど本当に身体に大丈夫だとは言い切れなくなるのではないか。薬も拒絶反応を見るために、今でも最終的にはヒトに対して反応を見なければならない。粒子が小さくなると基本的に炎症を起こしやすくなる。そういうものに対するアレルギーを測る標準規格を作る必要があろう。化粧品にしても「ナノ」という表示についての基準が定められていない。原子力ではないが、一回危険だという認識が広まると怖い。風評が立って市場が衰退する、ということもあるかもしれない。
・リスク
医療分野のリスクについては、今でも医薬では効果を確かめて法律的な問題をクリアするまで十年はかかる。その意味で有機分子の流れと似ているが、ナノ粒子はC-CやC-Nのように身体の中に古来からあるようなケミカルボンディングではないので、身体の中でどう反応するか、身体の中での無機物の影響はまだ良く分からない。イオンなど錯体の影響は分かるが、鉱物の影響は分かっていない。これからこうした研究を進めなければならないだろう。また、表面は分解するかもしれないが、他の部分はそうでないかもしれない。迅速に身体の外に出る技術が必要ではないか。その二点が、蛋白質医学や有機生分子医学と違って考えなければならないところだろう。環境分野では、ナノ粒子が拡散すると本人の意思・判断にかかわらず摂取してしまう危険性がある。それに対して医療分野は、薬剤の副作用と、治療を行わないリスクとを天秤に掛けて、リスクをある程度受け入れるというところが違うところかもしれない。インフォームド・コンセントにより、リスクについてのきちんとした情報を医師側から患者に与える必要がある。リスク各項目にとどまらず、具体的なリスクの大きさとそれを生じる確率について伝えなければならない。
・社会とのコミュニケーション
技術の一つ一つについてネガティブインパクトを全部考えていくというのは大切なことかもしれないが、「危険だ、危険だ」と言うだけで、社会に対して負のインパクトを与えてはいけない。フィクションではなく、風が吹けば桶屋が儲かる的な、起こりうることを見る必要がある。こうしたマップ作りでは理系の研究者だけでは難しく、社会工学者などの力が求められるかもしれない。
(2007年6月11日インタビュー)
版はこちら