ナノテク未来地図インタビュー−渡辺敏行さん(東京農工大学大学院共生科学技術研究院・工学府応用化学専攻教授)

・ナノテク(ナノ粒子・ナノチューブ)とは何か?

本当の意味でのナノテクの定義というのは曖昧である。そもそも物質と物質が反応するということは分子が反応するということで、それはナノレベルでの反応である。世の中の現象は全てナノテクから成り立っているのである。全てを「ナノテク」で括ろうとすると無理が生じるのではないか。ナノテクだからと意識するのではなくて、科学技術のひとつの切り口として捉えるだけでいいのではないか。


・ナノテクに関する取り組み

「環境・エネルギー」、生活の質という面から「医療・治療」、「安全・安心な社会」というこの三つをターゲットとして、科学でどう応えられるかを研究している。環境・エネルギーでは、二酸化炭素を超臨界流体状態で分解し、ダイヤモンドに変換する研究をおこなっている。工業用のナノダイヤ、ダイヤモンドを利用した半導体、燃料電池のための水素製造によって発生する二酸化炭素の低減になると期待される。医療・治療分野では、光を当てることで網状にした高分子ゲルがポンプのように働いたり、チューブ状にして蠕動運動を実現するゲルを作っている。化学的に安定した材料が開発されればDDS(ドラッグデリバリーシステム)や分析装置などに応用できると思われる。また、剣山状に微細加工したプラスチックの上に細胞を置くと細胞の活性が上がったり、細胞の移動方向を制御できることを発見した。これは将来の再生医療に役立つかもしれない。セキュリティでいえば、蛍光染料の発光と非発光を可逆的に制御できる材料を作った。これをカードに用いると、たとえばATMに入れると情報が差し替えられるようなものが作れる。このようなカードをキャッシュカードやクレジットカードに利用すれば偽造防止に役立つし、ラベルにすれば、海賊品の撲滅に有効であろう。


・将来像

燃料電池は触媒、膜、セパレーターなどの要素技術の開発に加え、水素の供給システムの整備や、水素の生産に伴って発生する二酸化炭素をどうするかの問題が未解決である。その観点からすると、太陽電池や太陽電池車の方が先に普及するかもしれない。色素増感型のスプレー式太陽電池については、増感剤である有機色素が太陽光線下で褪色するので、寿命の問題が解決しなければ普及は難しいだろう。ユビキタス社会は実現できるだろうが、その必要があるのかどうか疑問である。入ってくる情報量は膨大になっているが、人間の考えるスピード、判断するスピードは変化していない。いわゆる無駄な時間というものは人間の生産性を上げるためには凄く重要である。食糧の生産技術や廃棄物の処理技術は飛躍的に進歩するかもしれない。再生医療はある程度普及するだろう。それよりも地球温暖化による気候変動の方が人類の生存にとって大きな問題になるかもしれない。これを解決できる科学技術を産み出すか、あるいは昔の生活に戻るかの選択をせまられる時期が来るかもしれない。


・ガバナンス(政府の政策や大学・民間でのマネジメントのあり方)

政府の競争的資金が増えたことによって逆に弊害も多くなっている。成果を求められるような研究ばかりになり、研究成果捏造や、必要でないお金をもらって使い切れないという無駄が起こる。必要な人に必要なだけのお金が行くシステムができていないというのが一番の問題である。研究とは英単語を覚えるのとは違って、時間をかければ着実に成果があがっていくものではない。いつになったら、その問題が解決できるか予想がつかないものなのである。時に予想外の結果が得られて、その方が世の中の役に立つ発明につながることも多い。リスクが高い研究でも将来必要な技術であれば細く長くサポートできる体制が必用である。十年・二十年先を目指した研究はたとえば大学の運営交付金のようなものによって、なんのオブリゲーションもなく自由にやらせてもらった方が本来は良い。NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究などはターゲットが三年と短すぎるので大学がやるのには適していない。また研究目的の変更ができないのも成果があがらない原因である。


・リスク

ナノチューブやフラーレンなどナノ粒子やナノ物質が人体に対してどのような効用や害があるのかというところはちゃんと評価していかなければいけない。ナノのついた製品の検証、リスクの評価についても、消費者側も一緒に考えて行動しないと危険だろう。しかし、今あるものを否定するような研究はやりにくい。新しいものを作ったりするのは、研究費も取りやすいし、評価されやすい。リスク評価するようなものは公的機関でやったり、会社内でも独立した部門を作り、そこで評価していかないと難しい。さらに生体に対する影響は実際に実験しないといけない。人手と手間、時間とお金がかかる。薬の場合は、アメリカのFDA(食品医薬品局)がリスク情報などを提供しているが、ナノ製品の検証について日本でもそれに近いようなものが必要だろう。


・社会とのコミュニケーション

「ナノ」と書いてあればなんでも効くようなイメージになってしまっているので、科学的にその効用を考えるような啓蒙活動が必要であろう。自身の研究についても高校生向けや小学生向けにやさしい化学の講演をしたりする場合がある。

(2007年6月6日インタビュー)

ナノテクリスクプロジェクトのページ

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