小寺昭彦
今回は、前回にもその一端についてふれた「スウェーデン2021」について少し丁寧に説明したい。
私の印象では、ヨーロッパの高い環境への取り組み状況をささえているのは、個々人の意識の問題も無いではないが、それ以上にそもそもの民主主義的な政治に対する成熟度や、政府,特に地方のそれや企業のしっかりした目的意識,具体的には住民へのサービスや顧客志向,が大きく関係している様に感じられた。スウェーデンでは国税も高いのだが地方税の割合も大きいため、各地方での自治に対しても住民の関心が高い。'92に開かれたリオの地球サミットでの持続可能な社会を目指す21世紀に向けた行動計画「アジェンダ21」を受けて、それぞれの国のそれぞれの自治体が自分たちの地域のアクションプランとしてローカルアジェンダ21を作成することが決まった。これに対してスウェーデンでは'96までに、288の全ての自治体がローカルアジェンダ21に関する報告書を作成し終えている。(手元の'98の数字では、日本においてアジェンダ21,ほとんどの名称は環境基本計画を作成しているのは例えば都道府県では全体ののうち38である。市のレベルでは近年かなりのペースで増えてはいるがまだまだ全自治体とは行かない。)確かに環境への取り組みを行うには、地域性を考慮することは非常に重要ではあり、こうした地方の取り組みが先行するという事もスウェーデンにおいては決して違和感はなかったであろう。しかし、そうはいってもこの時期ヨーロッパではかなりの不況でもあり、国税を使った全体政策(例えば住宅政策など)も要求されてきたことから、国においても明確なビジョンの必要性が高まってきていた。
こうした背景を受けて'96の9月にスウェーデンでは持続可能な社会の構築を21世紀への政治目標に設定し「スウェーデン2021」の策定に着手した。2021年という数字は、プロジェクトが始まった'96から25年後の未来である。25年という長さは、必要な構造改革を行うと同時に、技術の発展をある程度正確に予測することができる期間である。それと同時に、自分の子どもが大人になるためのサイクルの年でもあり、これは未来予測でありながら「一世代の間に持続可能な社会をつくる」という宣言文でもあるのだ。'96にはじまったこのプロジェクトの策定中の'97,'98にも、政府では関係する五大臣により、(1)環境負荷を自然の許容範囲内に減らす。(2)天然資源を枯渇防止のために節約する。(3)マテリアル,エネルギーの効率化を推進する、という三つの目標を設定し、地方自治体向けには助成金を含んだ具体的な政策(例えば土壌浄化や教育など)も実施している。こうした取り組みの結果、当初は進んでいた地方よりも中央でのアジェンダ21の取り組みがだいぶ進んできたようである。スウェーデン政府には、環境に関する省庁として環境省と環境保護庁の二つが存在する。このビジョンは環境保護庁にて作成し全ての省庁での政策の基本となるものであり、環境省においてその具体的な政策を実践するという役割分担になっている。現在、環境省では2010年の環境目標を作成しており、これらの進捗状況は三年ごとに環境保護庁で評価を行うことになっている。こうして、ビジョンとして作成された「スウェーデン2021」は着実にその実現に向けて動いており、その成果が我々が視察した環境に優しいスウェーデンであるとも言えるだろう。
それでは、こうして'99に発行された「スウェーデン2021」の内容を見ていこう。私がもらってきた英文のパンフレットには、スウェーデンの森と湖の風景に虹がかかった美しい表紙を描いている(図.1)。
まさに明るい未来を目指す象徴であろう。表紙をめくると「2021年……私たちは小さなエネルギー効率の良い家に住む。食料生産に使われるエネルギーは三分の一に減少する。……」と具体的なイメージが描かれている。さらにこのビジョンが描くいくつかのセクターが図示される(図.2)。エネルギー,交通,農業,森林,食糧,消費財,家庭/オフィス,下水,都市と地方。こうした様々なセクターについて詳細なビジョンを描いているのである。こうしたセクターでの活動は、お互いに影響しあい作用しあっている。エネルギーや交通は工業や木材産業をはじめ全てのセクションに関係するし、水の問題は農業,森林,家庭と関係が深い。従ってこうした全体ビジョンがあって初めて個々の対応が可能なのである。
スウェーデン2021の最も重要なコンセプトは、二つのモデルケースを想定してその組み合わせにより持続可能な社会を実現しようとしていることである。この二つのモデルは「パスファインダー」と「タスクマインダー」と称されている。この二つの概念比較を図に示す(図.3)。
「パスファインダー」は、先導事例,抜け道探し役といったニュアンスであろうか。小規模地域循環型のモデルである。これに対して「タスクマインダー」は、どちらかというと大量生産型でありながら環境に配慮するという日本の循環型社会のモデルに近いようである。(良い訳語が思い当たる方は教えていただきたい。)持続可能な社会は、こうした二つのモデルの最良の組み合わせを探ることで実現するというコンセプトである。例えば農業の例を見てみよう(図.4)。
「タスクマインダー」モデルでは穀物,豚,家禽を、化学肥料,除草剤,殺虫剤を適切に使用し、機械化や効率化を行った商業ベースでの農業を推進している。"Bio-energy Crops"というのはエネルギー作物とでもいうのであろうか。バイオマスエネルギーの原料となる作物である。たとえば日本でも、休耕田で菜の花を育てて菜種油を絞り、これから自動車の燃料をつくったりしているが、これ以外にも発酵させてメタンをつくったりするための植物である。「パスファインダー」では牧草地、肉、ミルクを化学肥料、除草剤、殺虫剤を使わず、地域の生態系を配慮して自給自足のエネルギー節約型の農業を行うモデルになっている。少し余談になるが、スウェーデンにおいて牛乳が有機認証を得るためには、飼料などの規定だけでは不十分で親の牛と一緒に広い農地に放牧しストレスがない状態で育てられた牛から得られたものでなければいけないのである。この絵を見ているとそんな話が頭に浮かぶ。閑話休題。もう一つ食品流通のモデルを見てみよう。
「タスクマインダー」モデルでは大量生産で製造した加工食品を大規模に供給し、廃棄物を嫌気性処理している。一方の「パスファインダー」モデルでは小規模なエリアに供給された当然地域の食材を地元の商店で購入し家庭で料理をしてコンポストにするという風である。こうした二つのモデルに関しては、各自治体,地域やその状況に応じて最良の組み合わせを探ることが重要である。たとえば食事についても、二人暮らしまではミートボール(加工食品)を電子レンジ調理する方が良く、それ以上の家族ではチキンをグリルしてもLCA的には環境負荷を高めないという具体的な事例も口頭では説明があった。この様に具体的でありながら、二つのモデルを持つことで実現性と効果を担保している点は日本のビジョンではなかなか見られないところであろう。なお、ここに紹介した「スウェーデン2021」に関しては昨年発行された「Bio-City No.18」に全文訳が掲載されているので、興味がある方は筆者に連絡をいただければ複写をお送りするので参照されたい。
今回の視察時にはこのビジョンの作成にあたったアニタ・リンネルさんより詳細な説明を受けたがその中で、もっとも印象深かったことはこのビジョンの内容もさることながら彼女の言である。その言を引用して今回の結びとしたい。「25年で持続可能な社会の実現は可能である。しかしながら自然の復元にはそれ以上の時間がかかる。」■
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