連載:欧州環境先進地域事情(その4)

小寺昭彦

 ヨーロッパの中で環境先進地域と言ったときに、みなさんはどこの国をイメージするのであろうか?多くの方が一番にイメージする国はこれまでふれてきたドイツであろう。日本人でも親近感を覚える人が多いこの国は、日本の環境政策、特に循環型関連法の見本として良く話題に上る。日本よりも地方自治が強く地域ごとに環境政策を競い合うような所もあり、相乗効果を発揮しているのもドイツの特徴であろう。ではドイツの次はというと、私の場合は北欧である。特にスウェーデンの環境への取り組みは興味深いものがある。本号からは是非それを皆さんに紹介していきたいと思う。

 ではスウェーデンはどのように環境に優しいのだろうか。以前にもふれたが、一介の観光客の視線で必ずしも環境に優しいかどうかは判りにくい。ストックホルムでも駅の売店では日本同様にペットボトル飲料は売られているし、観光地では旅の恥はかきすてとばかりにゴミの分別状況が悪くなるのは日本に限ったことではない様である。(余談だが今回の旅行でゴミ箱を開けては写真を撮っていると、現地の方に怪訝そうな顔をされたものである。)こういった中でスウェーデンが環境先進国と認知された最大のトピックスの一つは、原子力発電の扱いを含めたエネルギー問題であろう。一昨年('99年)11月、何のトラブルもなく操業されていたバルセベック原子力発電所を政治的決断により停止したのである。スウェーデンの総発電電力量1582億kWh(日本は1兆362億、共に'98年)のうちなんと46.5%が原子力である。この国のエネルギー約半分を占める原子力発電所については'80年に国民投票を行い、その時点で計画中であったものまで含めて12機の原子力発電所を再生可能エネルギーが使用可能になるまでのみ使用し拡張はしないとの決定を見ている。(この詳細についてはおもしろブックスでも紹介された『北欧のエネルギーデモクラシー』(飯田哲也著新評論)を是非参照されたい。)それ以降、政権交代の度に方針は行きつ戻りつしながらもついに原子力の廃止に大きな一歩を踏み出している。

 そうした背景を踏まえ今回の視察では、大きく分けて二つの日本とは異なるエネルギーの形態,普及状況を実感することができた。その一つはコジェネレーションで、もう一つは自然エネルギーである。発電の際に発生する熱を温水にして利用する事で、電気と熱との両者を活用するコジェネレーションはエネルギー効率を30%以上上げることができる方法で、スウェーデンでは多くの家で温水を供給するインフラが整備されている。ヨーテボリ市で視察したレノバ社(ゴミ処理公社)の廃棄物焼却設備でも、熱で発電をすると同時にその際に発生した熱を温水にしてヨーテボリ市民12万人の家庭暖房用に供給していた。注目すべきはレノバ社はゴミ処理公社でありながらどちらかと言えば地域熱供給公社の性格が強く、可燃ゴミが不足する冬場には重油を燃やして熱を供給しているのである。地域再開発で建てられているストックホルム市街のマンションにも、こうした配管を設け暖房だけでなく冬場に選択したものを乾燥する乾燥室などにも活用している。日本よりもはるかに北に位置し平均気温が約10度低いスウェーデンでは、暖房に使うエネルギーの供給は非常に大きな課題であろう。

 一方の自然エネルギーでは、グリーン電力制度が大きく後押ししている。エネルギーの利用者が環境に優しいエネルギーを選択して購入できる制度は、前号で紹介した風力マクドナルドの例など企業の環境対応にも展開されている。もちろん、太陽電池パネルを設置する例も多いが、スウェーデンで一番注目すべき自然エネルギーはバイオマスであろう。ストックホルム郊外のブリストクラフト社は、森林の枝葉を細かく砕いて造った木材のチップ(写真1)により発電及び熱の供給を行う公社である。同社はストックホルムから約30Km離れた場所に位置しアーランダ空港を含む近隣の3つの町の住民3万5千人に熱を供給している。同社の燃料は森林を伐採したときの端材となる先端及び枝部分を活用しているが、現行では収集している半径100Kmエリアで発生している端材の10%しか利用できていないため、熱供給をストックホルム市まで延ばす拡張工事を予定している。こうした木質バイオマスエネルギー以外にも、ストックホルムでは下水処理の汚泥を腐敗させる際に発生するメタンガスを燃料として活用するためのスタンド(写真2)があったり、今後の農業のビジョンにEnergy Cropsというバイオマスの原料とするための作物が計画されていたり、さらにバイオマスの可能性は広がっていると言えるであろう。

 スウェーデンのエネルギー問題を見るときに注意しなければいけない事は、彼らは必ずしもエネルギーの効率化、再生可能化だけを推し進めているのではないということがある。スウェーデンは欧州各国の中では比較的堅調に経済成長を進めている国である。しかしそれに比してエネルギー消費量は大きく増加していない。そもそもの平均消費量が日本に比しても高い(これには暖房にエネルギーがいるという事情は大きい)国なので一概に比較はできないが、例えば手元の「世界の統計」によれば'94年から'96年の間のエネルギー消費量の伸びはその高い経済成長に比して僅かに0.5%でこの間の日本の消費の伸び5.0%の10分の1である。

 こうした経済成長率を維持してもエネルギー消費を抑えているのは、偶然の産物ではなく'95年に作成したエネルギー長期ビジョンにおいても明言されている内容なのである。さらに後述する'98年に作成された「スウェーデン2021」では、資源の利用を半分にしつつ利便性を倍にする「ファクター4の原則」によりさら経済の発展と人間の豊かさを追求するビジョンが提示されているのである。

 この様に環境先進国スウェーデンの形成には国策として持続可能な社会を目指しているビジョン形成が大きく影響している。もう少しスウェーデンという国について理解しておこう。日本においてスウェーデンは環境よりも福祉国家としての認知度が高い。実際、対GDP比で見た社会保障支出は30.6%(日本は11.6%)とヨーロッパ諸国の中でも非常に高い数字である。こうした行き届いた福祉を受けて、「既婚率が低い。しかし出生率が高い。」(つまり安心して一人でも生きていける。女性が子供を産み育てる環境が整っている。)とか、「失業率が高い。しかし経済成長率が高い。」(社会保険が行き届いているため産業構造変化が進みやすい。)といった特徴がある。関連した話では、「税金が高い。従って投票率が高い。」(高福祉にするため所得の約40%が税金で取られる。そのためその使い道についての関心が高い。)といった実態もあり、これに関連して「経済成長率が高い。しかし企業が国外に出ていってしまう。」(税金が高いためEU市場の拡大に伴い有力企業が転籍する傾向にある。)といった問題点もある。こうした高福祉国家スウェーデンの形成には、「障害者や高齢者に優しくない社会は、社会の側でその問題点を対応する必要がある。従って高福祉社会をつくらなければいけない。」という基本的な考え方があるのだという。実はスウェーデンが環境に取り組んでいった姿勢もこうした思想の延長上にある。つまり「自然に対応できない社会は、社会の側でその問題点を対応する必要がある。従って環境に優しい社会をつくらなければいけない。」という事なのである。つまり高福祉国家が同時に環境に優しい国家になるのである。こうした人にも自然にも優しい、これがスウェーデンの考える持続可能な社会であるという事は理解しておく必要があるだろう。■

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