小寺昭彦
ハノーバー万博の取り組んだ新しい試みとして、ワールドワイドプロジェクト(WWP)というなかなか興味深い企画がある。私は前回の文中で、同万博の限界を、「持続可能社会のモデルを見本市会場で国威発動型の展示を行い示そうとしたこと」だと述べた。それではどうすればよいかという答えの一つがこのWWPだと思う。このWWPとは同万博のコンセプトに合致する世界中のプロジェクトを認定し、万博をいわば地方分散同時開催する形にしたもので、ドイツ国内を中心に281の公式プロジェクトを展開している。例えば、「人間」「地球」「宇宙」の疑似体験ができるブレーメン近郊につくられたサイエンスセンター「ユニバーズム」、2005年にベルリン−ハンブルク間で実用化が予定されている時速500km以上の速度で走るリニアーモーターカー「トランスピット」に試乗できるテストコース31.5kmが施設されているエムスラント市、あるいは倒産したスキーリゾートからリフトを撤去しツアースキーヤーとハイカー向けに再天然化したイーメンシュタット、など私の手元にあるWWPの資料を見るとその内容は実に多岐にわたっている。実はハノーバー万博でのテーマ館の展示内容と、こういった現実のプロジェクトは密接に関連している。この点をもう一工夫してPRすれば、この博覧会にも奥行きが出たのにと思うと惜しまれる。もちろん中央集権型の展示を地方に持っていきさえすればうまくいくというモノではないだろうが、いずれにせよ体験してみる必要があると思いその一つを訪ねてフライブルグを訪れることにした。
フライブルグの駅で尋ねてまわると、すぐコンコースの二階に"Solar Region Freiburg"という案内所が見つかった。ここで訪問理由を話すと用意されたドイツ語、英語はもちろん日本語も含むパンフレットをもってきてくれて詳細に説明をしてくれる。フライブルグは研究都市であることもあり、特に環境面で有名になってからは日本人の訪問が多い町の一つである。従って観光案内所にも少しは日本語の案内を置いている町ではあるのだが、どれだけの人が訪れるか判らないこのWWP(少なくともフライブルグではWWPを見ている人には会わなかったし、日本で会ったハノーバーを見た人にもWWPは知られていなかった)の案内用に、日本語と当然その他数カ国語のパンフレットを用意している点に企画側のしっかりした意欲を感じた。“ソーラー経済圏フライブルグ”というこのプロジェクトでは、職住交通教育などの全ての面でソーラーエネルギー利用の可能性を示すことを目的としている。パンフレットの表現を借りれば「従来の見本市型ではなく未来へ向けての一つの現象として企画構成されたテーマパーク」であり、催行者側では「この構想にとりわけ自信を持っている」そうである。早速職住などの実例を見学してまわった。
ソーラー建築の未来像として訪れたシュリアーベルクは、エネルギーとエコロジーの最大効率を考えるとの構想に基づき建てられた集合住宅のモデルハウスである。このエネルギーハウスには500平方メートルのソーラーモジュールが取り付けられて、その消費量を超える最大800kWの電力を生産できる(写真1)。さらにこの近くではヘリオトロープとよばれるフライブルグでは有名なソーラーエネルギーハウスをみることができた。この家は「樹木の家」とも呼ばれ、枝葉をなす重さ100トン直径11メートルの居住部が直径3メートル高さ14.5メートルの幹の周りをモーターで回転できる構造になっている(写真2)。居住部分の片側半分はガラスの外壁で残り半分は断熱材の外壁であるため、回転により寒い冬には太陽側をガラス、日陰側を断熱材にし、夏はその逆にすることで光と熱の取り込み効率を調整することができる。この機能だけで暖房エネルギーの必要量がドイツ平均の8分の1にまで抑えられる。また、屋上の太陽パネルは常にその効率を最大限に高めるように、居住部分とは独立して太陽方向を向くことで、この家の消費量の5倍もの電力を発電することができる。これ以外にもこの家は幹の中を生ゴミや排泄物が通りコンポストになったり、雨水をフル利用するなどの様々な環境配慮型の住宅モデルとしての機構を備えている。
未来の職場の例としては、太陽エネルギーと植物油発電設備でエネルギーを100%自給自足しているソーラーファブリック社のオフィスが公開されている。この会社はソーラーモジュールのメーカーであるが、市内にあるそのオフィスは確かに太陽光を全面に浴びる構造でその前面には多くのモジュールが設置されている(写真3)。
よく見るとガラス面の下には人口の生態系を備えた池が設けられ、反射光までもフルに利用する構造になっている(写真4)。さらにプロジェクトの一環として自由に出入りできるオフィスでたまたま開かれていた会議室をのぞくと、この日は曇天であったにもかかわらずその明るい構造ゆえに且つ省エネを意識してか室内照明は点灯されておらず、別室でもかろうじて図面を書いている技師のスタンドに明かりがついているだけであった。こういった些細なリアリィティを「一つの現象として」の「テーマパーク」と称するとすれば、これはなかなか面白い。実際プロジェクトに記載されている以外にも、日照量の多いドイツ最南部という条件を活かしてか町中であちこちにソーラーモジュールやその関連企業を見ることができ、このプロジェクトが一過性でないことを実感できた。
もちろんフライブルグはソーラーだけの町ではない。中心部にも清らかなせせらぎの流れる美しい自然に囲まれた町であるし、直ぐ近くにシュバルツバルト[黒い森]を擁したゆえに酸性雨問題に対する取り組みから高い意識を育てドイツの環境首都とまで呼ばれた町でもある。実は私は今回、自転車を借り町をまわったせいもあって随所でそれを感じることができた。大気汚染に敏感なためだろうか?駅前はもちろん住宅地のドラッグストアの店先にも汚染度の電光掲示板が見受けられた。また中心部ではライド&パークにより公共交通を推進する一方で、車が比較的多い市街地でも専用レーンが整備されているため自転車での移動はとても快適である。その証拠として幼児を乗せた乳母車を引っ張った馬車の様な自転車で闊歩するお母さんライダーを次々と見かけることができる(写真5)。これ以外にも次回以降にまた触れることになるが、ゴミの処理にしても飲料容器のリサイクルにしても環境先進地域である証を捜すのはそれ程難しいことではなかった。
結論としてWWPはその認知度から見ても成功したとは言えないだろう。しかし、「ここではすでに未来の生活が始まっている」というパンフレットのフレーズを、一介の旅行者として訪れた私にも体感させたフライブルグの環境施策。この点が万博の背景として日独の差異にならないようにと願わずにはおれないフライブルグであった。■
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