連載:「企業と環境」のホット・トピックス(その5)
上村光弘
私がLCAという考え方に始めて出会ったのは1990年頃でした。自動車のバンパーをどのような材料で作るのがより環境負荷が少ないかというような研究で、日比谷図書館でたまたま手に取った本で著者は女性の方だったと思いますが、非常に印象に残りました。
●LCAとは何か
LCA(Life Cycle Assessment)とは教科書的に定義を書けば、製品の製造・輸送・使用・廃棄プロセスの環境影響を総合的に定量化して評価しようとする手法のこと。
例えば、自動車の鉄で作ったバンパーなら、鉄やメッキの材料となるクロムなどの鉱石を採掘するのにどれだけエネルギーを消費したか、自然環境を汚したり壊したりしたか、原料を輸送するときのエネルギー消費量。製造時のエネルギー消費と有害物質の排出量。自動車という製品になってからの燃料消費への寄与度。そして廃車になってから、リサイクルにまわすまでのエネルギー消費量などなど。これらの環境に影響があると思われる物質やエネルギー消費量を、まず排出量・消費量単位でまとめます(インベントリ分析)。
ついでそれぞれの排出量・消費量にある重み付けをして合計することにより、温暖化やオゾン層破壊、人体への毒性など、考慮すべき環境への影響ごとにまとめます。さらにそれを統合化して単一の指標にまとめるかについてはいろんな考え方があるようです(インパクト評価)。
インベントリ分析で終えるか、インパクト評価までおこなうかはLCA実施者に任されます。また広く考えれば製品のみならずサービスにも拡張可能です。
スイスのミグロスという生協では、飲料容器の材質をなににするかでLCAをおこない、結局リターナブルビンはやめてスタンディングパウチ(レトルトカレーの袋に似たもの)にしたそうです。
●LCAの現状と課題
このLCAですが、最近の環境関連の規格化の流行に漏れずISO14040シリーズとして規格化されました。これは製品のみを対象とし最低限の手順をまとめたものです。国際標準にのっとっておこなったLCAだと外部に向かって表明するためには、この規格に準拠する必要があります。
日本ではLCA日本フォーラムという産官学でつくった団体が活動しています。最近の動きでは、インベントリ分析に必要なデータベースを数年以内に構築しようとしています。要するに、どういった製品・原料を作るのにどの程度のエネルギー消費や有害物質排出を伴うかといったデータベースですが、企業機密の壁に阻まれてなかなか進展していないようです。
●LCAにどこまで期待できるか
「台所から世界が見える」こんな言葉をご存知でしょうか? これは自分たちの食べている身近なものが一体どこの地域や国からきているのかを考えることで南北問題や環境問題、世界経済が見えてくるということです。私は最初にLCAに出会ったとき、非常に印象に残ったと書きました。それは「台所から世界が見える」の意味するところに近い印象をもったからです。
LCAの最初はいわば可視化の過程です。インベントリ分析に先立って、製品の誕生から廃棄までの要素をこと細かにリストアップします。原料はどこから持ってくるの? どうやって採取するの? どうやって運ぶの? どうやって作るの? どうやって捨てるの? これらの前提が明確でなければLCAはできません。私はこの前提を可視化する過程こそ意味があるのだと思っています。
一方、インベントリ分析、インパクト評価と進むにしたがって、物質量なりエネルギー消費量なり、最終的にはいくつかの環境影響項目ごとの指標となってゆきます。LCAを使う典型的な状況は、似たような機能を実現するためにいくつかの候補があるが、どれがもっとも環境に対して良いか比較検討するような場面です。この作業を客観的に行うためにいくつかの指標に還元するというのは仕方のないことなのですが、これはいわば細かく見えていたものを見えなくする過程です。
LCAという手法は企業の内部で使われることが多いでしょうが、いくつかの指標として外部に公表されることもあると思います。その時はなぜこのような結果が出たのか、公表された指標の裏にある前提条件に思いをはせるようにしてください。
●参考資料
1.「LCAの”実力”に対する誤解 実践を通じて解いていこう」日経エコロジー2000年10月号p101、石川雅紀
2.「ライフサイクルアセスメント(LCA)に関する研究紹介と日本企業の取組み」連載/バル研の環境連続セミナー2000、松野泰也
3.資源環境技術総合研究所のホームページ http://www.nire.go.jp/lca/lca.htm
4.LCA日本フォーラム/(社)産業環境管理協会のホームページ http://www.jemai.or.jp
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