ファシリテーターのススメ〜「ワークショップの作り方講座」を終えて〜

ワークショップチームメインファシリテーター

小寺昭彦
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●ファシリテーターとは

 のっけから個人的な話で恐縮だが、私は欲張りな怠けモノである。好奇心は旺盛で、やりたい事も沢山あるのだが、そうした事をできるだけ人にやってもらって、楽して愉しく生きたいと思っている。ところが、人に何かをしてもらうほど難しいことはない。そもそも、引き受けてもらうのが大変だし、仮に受けてもらっても自分の思い通りにならないことが多い。「人に頼む」くらいなら「自分でやる」ほうがよっぽどまし、ということも少なくない。ここで究極の選択である。ほとんどの人はここで「自分でやる」を選ぶのだが、それでも「人に頼む」ことを選ぶ人は、ファシリテーターになることをお奨めする。自分でやるよりも人のやった成果を大きくするのがファシリテーターの特徴だからである。ただし、ファシリテーターがすべて怠けモノだと言っているわけではない。怠けモノがやりたい事をやるには、諦めて勤勉になるかファシリテーターになるしかないという話である。

 ファシリテーターという言葉も随分使われるようにはなってきたが、まだまだ馴染みがない言葉である。ワークショップや会議の「進行役」という意味でよく使われるが、これでは現象面だけしか表していないという点で不十分である。ファシリテートという英語の意味からいうと、「促進する」という点が必要である。ワークショップや会議の、本来の目的を「促進」している進行役でなければ、ファシリテーターとは呼べない。では「促進する」ためには何が必要なのであろうか? 実はファシリテーターの本質は、対象となる人や集団から何かを引き出すことなのである。

●リーダーからファシリテーターへ

 最近、注目を集めているのがビジネスの場でのファシリテーションである。補足すると、数年前までは「ファシリテーター」という単語の方が一般的で、環境教育をはじめとする参加型の学びの場で最もよく用いられていたようであるが、最近は「ファシリテーション」という言葉の頻度が増えてきている。企業のような組織で課題解決を図る際に、従来型の強いリーダーシップで戦略を立ててのぞむのではなく、ワークショップ形式で、肩書きを外して一人ひとりのアイディアを集めて知恵を結集すると同時に、意識をそろえて事に当たるようなケースが増え、その際「ファシリテーション」という言葉が用いられているのである。このような事例では、課題解決をするアイディアは、一人ひとりのメンバーが持っていて、それを整理したり、適切に優先順位付けしさえすればリーダー一人で考えるより、良い結果が期待できるとしている。これには、人から与えられたことよりも自分達で決めたことの方が取り組む積極性が違う、という効果も大きい。子どもの教育などでも明らかなように、人は外からの要求で何かを進めるよりは、内から自発的に何かを進めたときに大きな成果が得られやすい。個人でも組織・グループでも同じことである。予め内在しているものが引き出されることで、学びや課題解決などが促進されるようになるのである。この「引き出す」ことをファシリテーションといい、その役割をするのがファシリテーター。そしてそのための「場」がワークショップである。

 このようにファシリテーションという言葉が注目されてきた背景には、リーダーシップ型の組織運営やトップダウン型の教育にオルタナティブが求められていることがあるだろう。企業活動にしても市民活動にしても、強い推進力がなければ進まない時代は過ぎて、誰もが参加し、多くのセクターとの協働(パートナーシップ)型で進むようになってくる中で、そうした組織・グループ、あるいはそこに参加する個人の内なるものを引き出すことが欠かせなくなってきているのである。市民科学研究室でワークショップを行うようになってきた背景も、これと繋がってくる。科学技術と社会の抱える現状に対して、多くの市民の問題意識を熟成していくのに、ワークショップという手法が有効なのである。ここで面白いことは、市民科学研究室におけるワークショップの運営も、当初の3年くらいはリーダーシップ型で進んできたことである。それが、少し手詰まり感が出てきたところで、各プロジェクトのメンバーを中心にメンバーを募り、今回「ワークショップの作り方講座」なるワークショップを展開することにした。つまり、市民科学研究室の内なる英知を発揮する方向にファシリテーションすることにしたのである。

●作り方講座のカリキュラム

 こうした経緯で、約2時間のプレ講座プラス朝10時から夕方5時までの講座を三日間という、ボリュームのあるカリキュラムを組んだ。受講者は、各プロジェクトから8名に加えて一般の方も2名入って10名。時間の長い講座だと居眠りしたりしそうなものだが、参加型の講座なので次々と作業があり、話し合いがあり、発表があるので寝る暇もない。企画して実践した私や一緒にスタッフとしてお手伝いいただいた遊佐さんにとってもハードだが、参加する方にとってもハードである。それでも、最後まで全ての参加者が熱心に参加していただいたおかげで、私自身も面白かった。

 その内容であるが、こうした講座を実施してある程度の成果を挙げるためには、最終的な達成目標の設定が非常に重要である。例えば、今回の講座で言えば、講座を終了した時点でワークショップを作れるようにすることを目指すとはしていたが、これでは具体的ではない。そこで講座での達成目標を、

1. ワークショップを楽しんで、その上で作ったり実践したいと思う。(意欲)
2. ワークショップとは何かを理解し、作る上で必要な知識を身につける。(スキル)
3. ワークショップのプログラムを実際に作って実施して感触をつかむ。(経験)

の3つに設定した。このように設定すると、カリキュラムがイメージできてくるであろう。

 この中で一番わかりやすいのは、経験である。これは、講座の初日に、最終日にはワークショップを作って実施してもらうことを宣言して、着々と準備を進めた。次に意欲である。作ったり実践したくなるためには、まず面白いワークショップを経験することが重要である。もちろん、これまでもワークショップを受けている人も参加しているとは思うが、比較的簡単にできて何らかの学びが得られやすいワークショップがあれば、そのワークショップを人にやってみたくなったりするし、ワークショップ全般にも関心が高まるはずである。したがって、今回のカリキュラムには5分くらいの短い自己紹介から、1時間以上かかる少しまとまったものまで、いくつものワークショップを組み込んだ。最後は、スキルであるが、これは少し難しい。「こうやればできますよ」と解説しても、それだけでは身につくものではない。スポーツと似たようなもので、基本を教わって、簡単なシチュエーションで練習を繰り返して、実戦経験を積み重ねることが必要である。実際には、この講座の中でスキルは完全には身につかないとは思ったが、ともかく概要だけ叩き込んで、あとは各自の心がけで修練してもらうという少し乱暴な方針で良しとした。

●講座を終えて

 実は、講座が終わった今だから言うが、講座を受けただけで全ての受講者がワークショップを作れるようになることは難しいだろうし、となると受講者の満足度を上げることも大変であろうと思っていた。もちろん個人差もあるし、何事もそうだが始めてから本当にできるようになるまでは時間がかかるものである。したがって、できるようになるためには、とにかく始めて、諦めずに続けていくことが大事である。おそらく今回の講座で提供する3つがあれば、簡単なワークショップ作りを始めることができるし、それを続けていくことはできるはずなのである。

 そう割り切って講座を進めてみると、私の心配は杞憂に終わり、事前に考えていた目標設定以上の成果を得ることができた。実際に「ノドまできた一言をどう言う?」「のりもの万華鏡」と題した二つのワークショップが作られて、実践されるという課題もクリアーできた。受講者の方々の感想からは、カリキュラムの改善点も明らかになったが満足感も読んで取れた。そして何よりも、参加型の学びが大きいとして、学ばせる側にいたはずの私が、大きな学びを得ることができた。こうなってくると面白くて止められない。実は、今回の原稿に講座の詳細を書くことも考えたが、ワークショップの面白さは言葉では伝わらないし、ネタがばれていない方が面白いことも多い。申し訳ないが興味がある人は、時間に応じて出前講座をいつでもやるのでご相談いただきたい。

 怠けモノがやりたい事をやってもらうために始めたファシリテーターであるが、結局、勤勉に取り組むことになってしまった。ただ、最初から自分だけがやることに比べて仲間が増えていく。やりたい事をやり遂げようと思ったら、この差が大きいことは間違いない。

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