■ 宇宙開発再考プロジェクト ■
文責:河野弘毅
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地表における自分の位置を二次元もしくは高度まで含めた三次元において特定する方法を「航法」と呼ぶ。GPS(Global Positioning System)は米国の国防総省と運輸省の代表によって構成される審議会が管理責任を負う衛星航法システムであり、その受信機は近年カーナビや携帯電話に搭載され広く普及している。だがGPSは衛星を用いた航法システムとして最初のものではなく、唯一のものでもなく、さらに言えば「決定版」でもない。
GPSに先立って世界で最初に実現されたTransit(トランシット)と呼ばれる衛星航法システムは、GPSと異なるドップラー測位と呼ばれる測位方法に基づいて約25mの精度を実現、1964年に使用可能となり1996年に就役を解かれるまで、最初は米国潜水艦隊に利用され、1967年からは海事産業および測量分野で制限付きながら民生利用された。また、GPSとは独立した衛星航法システムとして同時代に旧ソ連が開発した「GLONASS」はロシアが引き継いで2004年12月にも3機の衛星を打上げて運用を維持しており、2005年9月現在で13機の衛星が稼動している。
そして現在、EUとESA(欧州宇宙機関)は共同で、GPSやGLONASSとの相互運用性を保ちつつそれらの既存システムとは異なり非軍事機関が管理する、ガリレオ(GALILEO)と呼ばれる自前の衛星航法システムを準備中である。ガリレオは年内に試験衛星の打上げを開始し、2008年からの運用開始を予定している。このガリレオ計画には欧州以外からもすでに中国、イスラエル、ウクライナの参加が決定しており、この9月にはインドの参加も確定した。EUはさらに、アルゼンチン、ブラジル、モロッコ、メキシコ、ノルウェー、チリ、韓国、マレーシア、カナダ、オーストラリアの各国とも計画参加にむけての交渉を展開中であることを明らかにしている。このリストに日本の名前はない。
ガリレオの展開は宇宙における国際協力の新しいモデルを示しているともいえるが、宇宙における国際協力でもうひとつ注目すべき存在は中国だろう。中国の宇宙開発機関「国家航天局」のホームページを見ると、中国が現在、複数の国際協力プロジェクトを積極的に展開している様子が見て取れる。ロシアとの戦略的提携をはじめとして、5月にはラテンアメリカ諸国に代表団を送り、6月にはバングラディシュ、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、モンゴル、パキスタン、ペルー、タイ、ベトナムの各国から参加者を集めて技術セミナーを開催し、7月には自国で開発した人工衛星をナイジェリアに輸出するという積極的な展開を見せている。ここにも日本は見当たらない。
EU、中国とならぶ宇宙大国であるロシアは、この分野で今や世界各国から引っ張りだこの人気者だ。EUのロケット発射拠点である仏領ギアナには2007年運用開始を目指してソユーズロケットの発射設備が建設中であるし、2003年10月に打上げに成功した中国初の有人宇宙船「神舟5号」は、ソユーズ宇宙船のコピーといわれるほどロシアの技術を導入した成果であり、また米国に対しては、スペースシャトルやISSの「失敗」をカバーするための欠くべからざる存在となっている。つまり今や「米国がロシアに依存している」のであって、その逆ではない。
「宇宙といえばNASA」という感覚がアポロ以来の日本人の〈常識〉だが、米国宇宙開発の象徴とも言える2つの巨大プロジェクトであるスペースシャトルと国際宇宙ステーションは、いずれも不満足な結果に終わろうとしている。その一方で、EU、ロシア、中国がそれぞれの国情を反映した個性的な台頭を示し、これまで宇宙開発の分野で蚊帳の外に置かれ続けてきた諸国を招き入れつつ、多様な協力関係を構築し始めている。ある意味で活況を呈しつつある宇宙の多国籍化の流れの中にあって、日本の宇宙開発は米国への依存度が高すぎる印象を受ける。宇宙開発において次第に明らかとなりつつある米国リーダーシップの退潮を現実として受けとめたうえで、日本はこの分野における国際協力戦略を見直す必要があるだろう。
参考文献:Pratap Misra,Per Enge著、日本航海学会GPS研究会訳『精説GPS -基本概念・測位原理・信号と受信機-』2004