■ 宇宙開発再考プロジェクト ■
文責:河野弘毅
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スペースシャトルの運行が再開された。2003年2月1日に帰還中のコロンビアが空中分解で失われてから、二年半ぶりの運行再開であり、NHKでは日本人宇宙飛行士野口聡一さんのニュースを毎日のように流し、JAXAのホームページでもこのフライト(STS-114)と野口さんの紹介に力を入れている。
だが、今回運行を再開したスペースシャトルは、ブッシュ大統領が2004年1月15日に発表した方針にもとづいて国際宇宙ステーション(ISS)の完成と同時に引退することがすでに確定している。当初その時期は2010年に予定されていたが、現有のオービター13機を2007年、2009年、2010年に段階的に引退させるプランを検討中との報道もある。
ニュースサイトNASA Watchの報道2によるとNASAがシャトルの引退を急ぐ理由は二つある。ひとつは「金食い虫」であるシャトルを少しでも早く終わらせ、浮いた予算を大統領命令である「月火星計画」へまわすため。ブッシュ大統領は、その「月火星計画」のために2010年までに必要となる予算120億ドルのうち純増額は10億ドルのみとし、残りの110億ドルは2010年までのNASAの総予算860億ドルを再配分してひねりだすように指示している。シャトルの打上げには500億円(コロンビア事故後は一説では800億円)掛かるが、代替輸送機関であるロシアのソユーズの打上げには20億円しか掛からない(松浦氏による)。シャトルの飛行回数をオービターの段階的引退により現在予定されている28〜30回から12〜15回に削減し、その一部をソユーズで代替できれば、差額で再配分の穴を埋められる計算になる。
引退を急ぐもうひとつの理由は、グリフィン長官が三度目のシャトル事故を恐れているためである。グリフィン長官は運行開始から20年を経過したオービターの老朽化が三度目の惨事の要因となることを懸念している、と報じられている。飛行が可能なスペースシャトルのオービターは過去に全部で5機製造され、このうちチャレンジャー(OV-99)が1986年の事故で、またコロンビア(OV-102)が2003年の事故で失われている。STS-114で飛行したディスカバリー(OV-103)は1984年に就航し、今回が4年ぶり31回目のフライトになる。残りの2機(アトランティス:OV-104、1985年就航、フライト実績26回、およびエンデバー:OV-105、1992年就航、フライト実績19回)と比較すると、早期引退させるのはディスカバリーと考えるのが自然だろう。
もともとブッシュ大統領の計画では、2010年にシャトルが引退したあと次世代の有人宇宙輸送手段(CEV)の就航予定である2014年までに4年間のブランクがあり、この期間アメリカは自国の宇宙飛行士のISSへの送迎すらロシアに依存しなければならないという「屈辱的な」状況である。米国議会には、この事態をよしとせずシャトルの引退をCEV運行開始まで延長するべきだとの意見もある。シャトルの段階的引退計画の背景には、このような議会のシャトル延命の圧力を封じ込めたいとするブッシュ政権のスタッフの意向が反映されている、と同報道はみている。
NASA首脳については、前任者のオキーフ長官は段階的引退には反対の立場だったが、四月に着任したグリフィン現長官は前向きの姿勢と報じられている。そのような首脳の意向を受けてかどうかは分からないが、同報道後に打ち上げられたSTS-114では、打上げ時に再発した外部タンク断熱材の剥離問題を約200名の専門家が調査中であり、この技術的問題に対する解決策が得られるまで次回のシャトル打上げは凍結するとの方針が公表されている。グリフィン長官自身、自前の有人宇宙輸送手段にブランクが生じることは受け入れがたいとのコメントを出しているので、CEVの就航を2014年よりも前倒しして実現できるという腹案があるのかもしれない。
予算と事故の観点からは、以上のようにシャトル早期引退は妥当なシナリオに見えるが、「それで約束のISSはどうなる?」との疑問は当然起きる。シャトルの段階的引退が実現すれば、ISS計画は当然さらに大幅縮小されるしかあるまい。2003年6月にケネディ宇宙基地に搬入されたままで打上げのメドもたたずに待たされている日本実験棟「きぼう」は、いったいどうなるのだろう。
コロンビア事故以後のスペースシャトルは「復活すること」自体に大きな意味があったわけで、その公約を果たした今、米国の宇宙政策の主題はシャトルのスムーズな引退とISSの「落としどころ」模索の二点にすでに移っている。本号が読者の手元に届く頃には、NASA内部のESAS(Exploration Systems Architecture Study)およびS-SCOT(Shuttle-Station Concepts and Options Team)から、シャトル、ISS、CEVに関する提言が提出される。これらの提言が「きぼう」の運命を決めることになるのかもしれない。
参考文献:松浦晋也『スペースシャトルの落日〜失われた24年間の真実〜』
1 :オービターとはスペースシャトルの宇宙船本体を指す。スペースシャトルはこのオービターと、固体ロケットブースタ、外部燃料タンクからなっており、外部燃料タンク以外が再利用されている。
2 :NASA and White House Discuss Early Shuttle Fleet Retirement http://www.spaceref.com/news/viewnews.html?id=1048