■ 宇宙開発再考プロジェクト ■
文責:河野弘毅
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米国の芸術科学アカデミーから"United States Space Policy: Challenges and Opportunities"と題する宇宙開発政策への提言が6月23日に発表された。執筆者はGeorge AbbeyとNeal Laneの二人(Abbeyはジョンソン宇宙センターの元長官)。Webから無償で入手できる1。
ブッシュ大統領は2004年1月に行った演説"Vision for Space Exploration"で(1)2010年までに宇宙ステーションを完成、(2)スペースシャトル次世代機を2014年までに運用開始、(3)2020年までに再び人類を月へ、月を足がかりに火星探査へ、という三つの目標を示したが、本提言はこのブッシュの宇宙開発方針を批判する。
ブッシュ大統領の演説では大きな夢が語られたが、実際には政府は夢の実現に必要な宇宙開発への積極的関与を実行しておらず、逆に国防上の要請から実施されている人工衛星の輸出制限は宇宙産業に打撃を与え、ミサイル防衛兵器の宇宙配備計画は、すべての宇宙開発に不可欠な国際協力の前提となる同盟国の米国への支持すら損ないかねない状況であることを、本提言は指摘する。具体的な問題点として、輸出規制、人材育成、優先順位、国際協力の四つの領域において米国の宇宙開発が直面している障壁について述べ、政府はこれらの障害を克服すべく、夢を語るよりも関与を増す必要があるという主張が展開されている。
第一の障壁として、宇宙技術の海外輸出に対する規制の問題がある。この規制は90年代には緩和された時期もあったが現在では再び強化されており、輸出承認の遅れと輸出先への技術資料開示制限のために、米国の衛星産業は1998年には64%を占めていた世界市場でのシェアを2002年には36%にまで失っている。
第二の障壁は人材の不足である。米国では物理学の博士号取得者数がアポロ時代の60年代と比較して半分以下に減っている。工学を専攻する大学生の人数が中国では年間20万人、日本では年間10万人いるのに対して米国では6万人にすぎない。宇宙開発計画をささえる人材の層が60年代と比較してずっと薄くなっている。
第三の障壁は、宇宙開発計画における予算配分の大幅な変更、すなわち科学探査から有人計画への予算の移動である。現在の計画では今後5年間に有人宇宙計画の充実に必要となる資金のうち1000億円はNASA予算を増額するもののその十倍の資金はNASA内部の別の科学探査計画の予算を削減することにより捻出しようとしている。総額予算が増えない状況でシャトル次世代機の開発へ予算が集中された結果、ハッブル天文台の修理ミッションがキャンセルされた問題がこの事態を象徴している。つまりブッシュが求めるのは「冒険」としての宇宙であり科学探査ではないという訳で、本提言ではこのような予算配分の大幅な変更に反対している。
第四の障壁は国際協力の視点の欠落である。ブッシュのビジョンの実現には国際協力が不可欠なはずだが、計画の立案に他国の参加を求める気配がない。にもかかわらず宇宙ステーションのオペレーションには他国の支援をあてにしている。さらに、繰り返しになるが国際協力の推進に米国の宇宙軍備の増強計画が影を落としている。軌道上への兵器配備は世界の米国に対する不信感を増す結果につながると、本提言は強く警鐘を鳴らしている。
宇宙開発の場合、大学衛星のようなケースを除いてナショナルプロジェクトとして推進されることになるため、宇宙開発を論じる場合は国家の宇宙開発政策を論じることになる。
宇宙開発政策は大きく分けて経済、軍事、文化(科学および冒険を含む)の三つの視点から論じられ、論者の持論と立場に応じて軸足の置き方が異なる。
政策決定である以上、プライオリティの付け方の議論が主たる検討事項となる。そして宇宙の場合は、この経済・軍事・文化の相関性の中でどこに軸足を置くかという議論が、どの国の場合でも検討の中心をなしている。
しばしば日本の宇宙開発にはビジョンがないと批判されるが、このレポートを読む限り、アメリカの宇宙開発政策もビジョン混乱の可能性をはらんでいるように思われる。ビジョンにふりまわされず市場原理に準拠して行動しているようにみえるロシアが、いま宇宙ビジネスで一番元気がよさそうなのがおもしろいと思う。
1:レポートの入手元URL:http://www.amacad.org/publications/spacePolicy.aspx