スウェーデン・ノルウェー・デンマークを訪ねて

〜市川房枝記念会スタディーツアーに参加して〜
愛媛県松山市 渡辺まどか
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松山市在住の『どよう便り』購読者、渡辺まどかさんから貴重な北欧訪問報告が届きました。土曜講座では以前にも樋口美智子さんに「私の見たスウェーデン」と題してお話を伺いましたが(『どよう便り』第11号参照)、渡辺さんの報告は、市民が主体的な政治参加を具体的にすすめていくためのヒントをたくさん提供してくれていると思います。皆さんのご意見ご感想をお待ちしています。(U)■

昨夏、学生時代からの念願がかない、北欧へ旅することができた。10日間のスタディ・ツアーだったが、私にとって収穫は大きかった。
皆さんは、北欧にどんなイメージをお持ちだろうか。
研究者の方などが、北欧の旅について土曜講座で述べられていたこともあった。でも日本の参考になり難い、遠いところと思われている方も、多いのではないだろうか。
私も、自分なりに勉強したつもりだが、“北欧は日本とは違うから”と考えつつ行った。
だが私はいま、高齢化の加速する日本の私達が、北欧に学ぶ必要性は高い、と改めて思う。

私は3年前から愛媛県松山市に住んでいる。
他の地域でもそうだと思うが愛媛では、アメリカの情報はある程度入るが、北欧はあまり知られていない。そのため偏見も多いようだ。地元の方々とも“なぜ北欧か”を考えたいと思い、人に頼まれるまま2回の報告会をした。一緒に旅したノルウェー研究者と共に、2月には松山でオンブズマンについて会を催した。どちらも思ったより反応が大きく、北欧に関心を持つ方がほんの少しは増えたと思う。

そんな時、上田さんから「どよう便りにも報告を載せませんか。」とメールをいただいた。
皆さんと体験を分かち合い、“今なぜ北欧か”を感じるきっかけになれば、うれしいと思った。
ここではまず、旅の概要、スタディー・ツアー参加への動機をお知らせする。そして、いくつかの訪問先など(主に男女平等参画の視点から)を紹介することにした。次に、岡澤教授らの主張する「高齢化率と社会の関係」をごく手短かに紹介し、なぜ北欧から学べるか私なりにお伝えしたい。それから北欧で私が強く思ったことを、皆さんと分かち合いたい。最後に、この旅を踏まえて今後、自分がどう行動していくかを述べ、皆さんからのご指導・ご教示をお待ちしたい。


1.旅の概要

●テーマ:北欧3国に見る平等参画と社会福祉政策
ほとんどの訪問先が、男女機会均等の見地から選ばれた場所だった。
●期間:1998年8月12日〜21日
●主催:財団法人市川房枝記念会
●随行:山口みつ子(市川房枝記念会理事、男女共同参画審議会委員)/岡澤憲芙(早稲田大学教授、男女共同参画審議会委員、人口問題審議会委員)/吉武真理(在ノルウェー日本国大使館元専門調査員、慶應大学大学院博士課程)
参加者は全国から16人。3人にひとりが、市会議員か、元市会議員。行政の人もいた。

2.どうしていくことになったか・皆さんと分かち合いたいこと
  
  なぜ北欧にいきたいと思ったのか、お伝えしたい。

◆インドシナ難民の人たちと

高校時代、アメリカに留学した時、お昼をいつも一緒に食べていた友だちが、インドシナ難民の人たちだった。もと難民の彼や彼女は、「私の父は、目の前で殺されたの」「アメリカへ来られても、宿題も英語がわからなくて何時間もかかるしアルバイトもある。いつも睡眠は5時間もとれない」などとランチを食べながら、淡々と私に語った。私は16歳だったが、何が自分にできるのか、わからなかった。
日本に帰国後、私は自分だけのうのうと安泰な生活をしていると感じていた。だから大学入学後、日本にきているインドシナ難民の人たちとのボランティア活動に加わった。だが日本での彼らの生活は、アメリカで出会った人たちの生活よりも、ずっと厳しいものに思えた。
その後私は、北欧の難民受け入れ状況を知り驚いた。受け入れる数はけた違い、母国語教育も整っているなど質も日本と比べ物にならない。のちにその理由は、人権感覚が高いことだけでなく、経済的背景もあってのこととわかったが、私の北欧への興味は、そこから始まった。

◆羨ましい国々・・・どうして?

その後私は、環境、福祉、開発、ジェンダー、子どもをめぐる状況などに関心が深くなっていった。だがどれをとっても北欧は、私にとって羨ましい国だった。同時になぜそうなのか知りたいと強く思うようになった。
いよいよ北欧に行くと決めた時、最初は信頼できるスタディ・ツアーでと思った。子どもを夫に預けられる期間も合い、複数の人からのお墨付きで市川房枝記念会スタディー・ツアーに決めた。男女の平等参画が主なテーマのツアーだが、男でも女でも得ることの多いツアーだと思う。
訪問先でも、また随行の岡澤教授や吉武さんの講議からも、私がうけた刺激は大きい。

3.訪問先から
  
  ここでは、訪問先のうち特に印象深かった数カ所を紹介したい。

●ノルウェー国会議員マイヘレンさん30歳(25歳から国会議員、子ども2人)
 ノルウェーの比較的若い国会議員やジャーナリストらと昼食を共にする機会があった。

◆子どもを抱えた女性を

そこでマイヘレンさんが強調していたのが、”ノルウェーでは若い(子どもを抱えた)女性を比例代表選挙名簿の上位にのせることが重要だと考えられてきた”ということ。
なぜか。
生活実感をダイレクトに声にしていけるからだ。
女性の政治参加を増やすことが大事だが、オスロ市では30%をこえる女性市会議員がいる。ほかの北欧各国でも大体似た傾向にあるそうだ。
私事で恐縮だが、自分の2人の子どもが今より小さくて必死で育てている時、「世の中で私は小さく取り扱われている」と毎日感じていた。言いたいこと、提言できることは山ほどあった。でもそうした子育てで必死の人の声を届けるルートは、日本では、見えない。
北欧では長い論議の積み重ねの上、こういう流れになったのだろうが、我々にも非常に大切になってくる視点ではないだろうか。

◆男女平等は男性にとってもいい

彼女がもうひとつ強調していたことがある。70年、80年代、ノルウェーでは男女平等を形にする法制度を進めた。そしてたどりついた結論が、「男性の頭の中に、平等にできない原因があるのではないか」だ。その結果として彼女は、こう述べた。「男女平等をすすめることが男にとってもいいとの認識を広げることが大事だ」。
制度を変えてきた彼女達が、改めて必要と思ったものが、男性の意識の変革なのだ。


●男のネットワーク(NGO) ヨン・オーラム・アルスターさん(国会議員)グレーテ・フォッスムさん(ジャーナリスト)

同じ昼食会で、この男のネットワークの人たちとも出会った。
この、男のネットワークはひとり親の会などから発生した。
パパ・クォータと呼ばれる父親の育児休暇がノルウェーにはある。約一年間の有給(全額支給)育児休暇のうち、4週間は父親がとることになっているというものだ。クォータとは割り当て制という意味である。子どもと時間を共有するため、その保証された父親育児休暇がもっと欲しいというのが、男のネットワークの政策提案の一つだ。
ちなみに日本での育児休暇中の所得保障は、平均25%である。
もうひとつ、会のメンバーが訴えていたことがある。離婚すると子どもの育児権が、ほとんどの場合、女親に渡ってしまうということだ。男ももっと育児権を持ちたい。そのためにも、男も積極的に男女平等の担い手になることが大切だと主張している。それが2つめの政策提案だ。
男のネットワークは、インターネットなどで呼び掛け活動している。
ノルウェーには、政府が音頭をとる“男の役割委員会”がある。男性自身が今までの男らしさ神話から抜け出ることが、社会全体にとっても個人にとっても有益との認識から、男の役割を再検討しようという趣旨だ。
政府主導のこういった会は、北欧は日本に比べて行いやすい。ノルウェーは3/4くらいが公務員だからやりやすいのだ。日本では500万。残り6000万は民間企業の一員。
スウェーデンにも同じような会や政府の委員会があることは、ヤンソン由美子さんの本などで知られている。
男のネットワークの方々は、実際会ってみて魅力的だった。

◆男性が男性に話すことの大切さ

この会で、頭に焼き付いた言葉がある。それは、「男性が男性に話をする方が、より聞き入れやすくなる」だ。男性が男性に話をしていくことで男女平等も進歩する。
随行の吉武さんはノルウェーに長く住まれたが、実感としてそう思うと話された。「日本のこれからの男女平等の課題は、いかに男性を巻き込むかでしょう。ぜひ、頭の柔らかい、若い男性にアプローチしてください。」と言われた。

●ノルウェー男女平等オンブズマン事務局クリスティン・ミーレさん(副オンブズマン)

情報公開の動きが日本でも盛んな中、ここは特に考えさせられた訪問先のひとつである。
前出の吉武真理さんにこの2月、松山でノルウェーのオンブズマンについての講演をして頂いた。そのとき学んだ内容などから補足しながら、ノルウェー男女平等オンブズマンについてお伝えしたい。
なお、皆さんの中には、オンブズパーソンやオンブッドという言葉は使わないのかという方もいらっしゃるかも知れない。
だが吉武さんによると、ノルウェー男女平等オンブズマンのアンネ・リーセ・リーエル氏自身が、こう述べているそうだ。「言葉の表面的なことにはとらわれず、それよりも私達は生活の奥深いところの状況を変えることに専念している。だから英語で話す時はオンブズマンという言葉で通している」
北欧と日本の男女状況の質の違いが顕著にあらわている事柄ではないだろうか。
ここでも、リーエル氏の考え方に習って“オンブズマン”を使うことにした。

◆ノルウェーのオンブズマンは公務員

オンブズマンと言うと皆さんは何を想像されるだろう。
日本では、“市民オンブズマン”というものが有名だ。“オンブズマンは民間がお役人の不正を暴くもの”というイメージが一般的ではないだろうか。
それに対しノルウェーでは、オンブズマンは公務員だ。男女平等オンブズマンも、国家公務員として働いている。
オンブズマンという言葉は、本来は、”代理人”という意味である。
オンブズマンは、公式にはスウェーデンで19世紀に設立されたのが初めである。
公的機関としてのオンブズマン制度は、今では世界約40カ国に置かれている。
ノルウェーには、オンブズマンとしては他に、国会オンブズマン、国防オンブズマン、良心的兵役拒否者オンブズマン、消費者オンブズマン、子どもオンブズマンがある。

◆男女平等オンブズマン

この時は、来日したこともある男女平等副オンブズマンのクリスティン・ミーレさんを、伺うことができた。
男女平等オンブズマンは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドにのみ存在する。
1979年男女平等法が施行されたのに基づいて、ノルウェー男女平等オンブズマンが設立された。
男女平等オンブズマンは公募され、国王が任命する。独立した公共機関で、非常に大きな権限を持っている。自由裁量も大きい。男女平等オンブズマンはひとりだが、事務所にはほかに7名のスタッフがいる。児童家族省に置かれているが、たとえ大臣といえども監督指導はできない。

◆日本とノルウェーの苦情処理の比較

一番重要な任務は、男女平等法の施行。
具体的には、性を理由に差別されたと感じる人からの、無料の苦情受け付け、相談で、日本でも知られている(そのうち約20%が男性からの苦情である)。雇用、賃金、昇進に関しての苦情が多い。苦情総数は減少傾向にある(1997年 101件/人口約450人中)が、内容は複雑化している。
雇用主に対してどのような処置をするなどの拘束的な決定をすることはできない。できることは、問題に対する見解を表明することである。
オンブズマンが見解表明し、もし雇用主が不服を感じる時は苦情処理委に申し立てができる。裁判に持ち込むこともできるが、少なくなってきている。
苦情処理委員会は年6〜7回開かれるが、男女平等オンブズマンより広い権限を持っており、拘束的な決定を下すことができる。
個人も裁判にかけることができるが、裁判よりもオンブズマンへの苦情申し立てが圧倒的に多い。
日本では、苦情処理としては、女性少年室長の勧告などというものもあるが、一番大きいのは機会均等調停委員会だそうだ。しかしこれには限界があるといわれている。均等法が制定されてから10年以上たつのに、今まで調停が開かれたのは、1999年4月の改正均等法が施行された以前は、わずか1社である。
ノルウェーでは政府の機関や地方の行政機関がオンブズマンの勧告を守らないことはルール違反とみなされる。
オンブズマンの発言と役所とのかかわりについては、オンブズマンは決定できる立場にはない。だが、省庁の決定より上に来るのが普通である。
法律や規則はオンブズマンの権限ではなく、国会で争われるものである。
男女平等オンブズマンは行動を政府に報告する義務があるので年次報告書を児童家族省に提出している。その他、自由裁量で、議会にも活動報告している。

◆情報提供〜オンブズマンの重要な任務

以上が日本でも知られているオンブズマンの役割であるが、オンブズマンには、情報提供という重要な任務もある。講演、調査、広報などであるが、マスメディアにも頻繁に登場するのだ。吉武さんも、“事実を事実として広く公表する情報提供”の役割を知ってほしいと言われていた。
具体的には、新聞に執筆したり、テレビ・ラジオのインタビューなどに数多く出演する。地方にも講演に出かける。国民に広く、今どんな問題があがっていてどこを議論したらいいかなど提示していくそうだ。
日本には、オンブズマンのように強い影響力を持って情報提供する、そんな公的機関はない。

◆国際的な関係・NGOとの関係

ノルウェー男女平等オンブズマンは、国際社会にも貢献している。ノルウェー男女平等オンブズマンには世界各国から視察団が絶えず、オンブズマン自身が外国に招待されることも多い。3年前には日本にも講演活動などできている。
ノルウェーはEUに加盟していない。だがEUや国連機関の男女平等の活動に、男女平等オンブズマンが政府を代表して参加している。男女平等推進に関わるノルウェーの第1人者として、国外でも活躍しているのだ。

最後にクリスティンさんは、男女平等をめぐるNGOの役割について述べられた。
国が男女平等を積極的に押し進めるにつれて、NGOの活動は以前ほどではなくなってきた。だが、男女平等を獲得するために、NGOは非常に重要な役割をになってきた。
この後、次に述べるファンキンゲルさんのところで、北欧でのNGOの役割について、再びふれたい。

◆なぜ公務員同士でできるのか

松山でオンブズマンについて吉武さんに講演して頂いたあと、複数の人から同じ質問がでた。「公務員同士でどうしてそんなことが可能なのか。日本的感覚だと、守秘義務などで公務員同士かばいあわなくてはいけないのに」というものだ。
吉武さんは、ノルウェー男女平等オンブズマンを、現地語で数年に渡ってフォローしてきた。日本で1番その活動を知っていると思われる彼女は、こう答えられた。
“行政の透明性は日本の比ではありません。オンブズマン制度と情報公開制度のタイアップは必要不可欠のものです。また、公務員同士で癒着するようなオンブズマン、業績をあげないオンブズマンは免職され、かつ市民の審判を受けることになります(オンブズマンはあくまで「市民の代理」ですから)。そうなれば、彼は社会的信頼を失い、彼自身の将来にも支障が出るでしょう。国民主権が現実に機能している国と、名ばかりの国との違いです。ただし、実際にノルウェー及びスウェーデンで、オンブズマンが不正をなした事実はありません。
また、官民の間の人事が流動的で、相互に人がよく入れ代わります。そのため、官の中だけで秘匿することが難しい。日本のような「官vs.民」という図式にはなりません。
(北欧の人材登用の状況を知ると、日本の公務員試験制度の弊害がとても目につきます。)
また、たしかに「国家公務員同士」ではありますが、行政監査のオンブズマンは国会の特別職であり、行政サイドの人間ではないことも注意してください。”

◆民主主義の成熟度の違い

皆さんはいかが思われただろうか。苦情処理機関、情報提供機関として強い権限を持つ公的オンブズマン。それを垣間見ることができたのではないだろうか。
ただ、あまりの日本との違いに、“なぜそんなことができるのか?”と疑問も多いのではないか。
吉武さんも、東京などでオンブズマンの講演をしても、こういう声を聞くそうだ。
「でも、日本の例を見ていると、そんなに上手く物事が運ぶわけがないし……やはりいまひとつ、よく分からない。」
彼女はこう付け足された。
「でも、日本の人に今一つ分かりにくいことこそが、日本とノルウェーの社会の民主主義の成熟度の違いを如実に示しているようにも思う。あまりにあっけなくノルウェーのオンブズマンがなぜ上手く機能しているか分かってしまうと、なにか悲しい気さえする。」

◆オンブズマン制度を日本でも話そう!

ところで、日本にオンブズマン制度を設けることは、妥当だろうか。
日本では、川崎市をはじめ、自治体でオンブズマン制度が検討され始めている。最近では、統一地方選挙で現職札幌市長が、行政オンブズマン制度実現を公約に掲げた。
しかしまだ、公的機関のオンブズマンという選択肢を、認識している人は少ない。
ノルウェーのように大きな権限を持つ公的オンブズマンの導入は、日本では抵抗が多いかも知れない。欧米に比べ日本には、摩擦を嫌う特徴があるといわれるためだ。
だが、ノルウェーでも、オンブズマン制度を導入する時には、かなり激しい議論が行われたそうだ。保守的な人であればあるほどオンブズマン制度に反対の人が多く、非常に政治的な議論になったそうである。
それなのにどうやって制定されたか。
オンブズマンを制定に持ち込んだ賛成派の意見は、主に2つあげられるそうだ。

1つめは、例えば男女平等などの難しいテーマには、法を作るだけではなくそれを守らせる監視役を作らなければ無理だという意見。

2つめは、男女平等などの問題はやはり個人レベルに起きることが多いので、その一個人が大きな社会の中で問題を取り上げてその解消のために戦っていくのは非常に難しいからということだ。

日本でも、最初は抵抗が多くても、議論を重ね、この制度を活用する道はあるのではないか。
公的オンブズマンは、まだまだ日本では理解されていない。また導入するにはたくさんの論議が必要で、生みの苦しみは大きいかも知れない。
だが日本または自治体独自のオンブズマン制度を、私達は政策提案のテーブルに、のせてもいいのではないか。

●スウェーデン最古の女性団体フレデリカ・ブレーメル協会アン・ファンキンゲルさん

◆北欧のNGOの役割

フレデリカ・ブレーメル協会は、1884年に生まれたスウェーデン最古の女性団体だ。現在会員は2000人(スウェーデン人口885万人)である。
国が男女平等政策に積極的になるにつれて会員数が減ってきた。だが、この様なNGOの活動が盛んになり影響力が高まったから、国も動くようになったと聞いた。民間の要求が行政に反映されるようになってきたから、NGOも会員数が減ってきたのだ。
日本では、「アメリカはボトムアップで民主主義が達成されてきたが、北欧はトップダウンだ。だから北欧の民主主義はもろい」と言う声を聞く。
なるほどクォータ制など、まず制度を変えることによって人びとの意識を変えていく、というものも、多い。
だが男女をめぐる状況は、初めにNGOなど民間が頑張って、制度自体を変えてきた経歴があるようだ。フレデリカ・ブレーメル協会の例でも、その経歴が伺い知れると思う。
この協会が現在力を入れているのは、“地位のあるところに女性を送る”ということだ。
これまでの経過をアンさんは説明してくれた。

◆初めはかけ込み寺から

初期は、協会でシェルター(かけ込み寺)を全国に作った。この協会などの働きかけにより国や自治体も動いた。その結果現在スウェーデンには、どこの自治体にいってもシェルターがあるという。
1970年代、次の点で論争が盛んになり、協会でもセミナーなどを開いた。女性への暴力、中絶、避妊具の普及、ポルノ、売春、乳がんのチェック、父親の役割など。政府や地方自治体に対しても、大きな影響力を及ぼした。
1980年代の論点は、女性とお金、女性と科学、女性とコンピューターなど。女性とコンピューターのセミナー活動などは、1983年に行ったそうだ。16年も前の段階である。背景には、このままではコンピューターを使う分野を女性が敬遠し、男性ばかりになるとの分析があった。それは将来の、情報格差、それに伴う新たな賃金格差をもたらしてしまうという危惧があった。新たな問題をひき起こしてしまうという危機感があったのだ。それを予防するための対策を、16年も前からとっているのだ。
1990年代は、女性たちは非常に忙しくしている。だからイベントなどでも、多忙を割いてでてくるようないいものを作るのに苦心している。
また現在は、“女性の地位を高めるための新たな試みの必要性”を感じている。
その必要性とは、キャリアを積んでいる女性に対する“やきもち”である。地位を築いた女性に対して、女性が冷たい態度をとることがよくある。「あの女性は、よく外にでてるから家事や育児が不十分だ」女性が女性の足を引っ張ることが、往々にしてある。
それに対する対策は、女性同士が議論することから始めることが大事と、アンさんは説明した。小さなグループをスタートさせ、話すこと。そしてそこに地位を獲得した女性を入れて話し合うと、双方が新たな発見をすることができる。

◆地道な取り組みから制度へ

日本に住む私達から北欧を見ると、制度がいい方にどんどん変わっていいなあと思ってしまう。でも、制度が改革されるまでには、NGOなど市民の地道な取り組みが、北欧でもあったのだ。
大熊由紀子著『「寝たきり老人」のいる国いない国1990年』の中に、大熊由紀子氏と岡澤教授の対談が載っている。そこで岡澤教授も、北欧社会のことをこう述べている。
“お上から何かをもらうんではなくて、自分のやれるところからとにかくやっていくという姿勢、基本的には、上から与えられたのではなく、闘って確立してきた姿勢”
決して最初から、上から民主主義ができたわけではなかった。
その意味で、私達にも非常に参考になる道を示している、とは思わないだろうか。


4.いまなぜ北欧か

 〜『高齢化率による社会規定論』の紹介

ここで岡澤憲芙教授らの“高齢化率が社会をおおまかに規定する”という考え方を紹介する。北欧から学ぶことがなぜ私達のためになるのかの、一つの根拠になると思う。
はじめに、岡沢教授の言葉を紹介しよう。
“いまなぜスウェーデンか。この質問に対する答えはごく自然である。「現時点で、最も高齢化率の高い国であるから」世界に約209の国があり、地球人口は約60億人である。統計が公表されている国で、しかもある一定規模の人口を持つ工業国家で、スウェーデンの高齢化率18.1%に匹敵する国はない。”(『エイジング・ソサエティ』岡沢憲芙・多田葉子著、早稲田大学出版部1998年より)

なぜ高齢化率が高い国から日本の私達が学べるのか。その考え方を次に、ごく簡単に紹介したい。
斎藤弥生・山井和則著『高齢者会と地方分権』(1994年ミネルヴァ書房)から図と表を拝借する。なお、’98年のスウェーデンの高齢化率は18.1%、日本は16.2%である。

まず図1を見て頂きたい。これは、高齢者政策の、スウェーデンと日本での変遷である。
両国の高齢化率10%のところに注目して頂きたい。スウェーデンで、老人ホームが批判されたが、日本でも寝たきり老人問題がクローズアップされた。また高齢化率13%を見ると、両国で地方自治体が、高齢者についての福祉計画を作っている。
このように高齢化率の変化により、高齢化政策のあり方が両国で変わっていることが分かる。高齢化率によって変わってきたのは、高齢者政策だけではない。表1は、高齢社会以前から超高齢社会までのスウェーデンと日本を比較している。高齢化により、国家目標、価値観、家族形態などが変遷してきた様子が示されている。

なぜ高齢化により社会が変わってきたのか。 それは、人口動態が社会を規定するからだ。人口動態によって、社会の要請が違ってくるからだ。その説明を前出の『高齢社会と地方分権』から抜粋させて頂くので、図2を見ながら読んでほしい。 “子どもが非常に多く、平均寿命が短い社会、すなわち、発展途上国の人口ピラミッドは<ヤマ型社会>を描く。<ヤマ型社会>は政情が不安定な場合が多い。つまり、<ヤマ型社会>の目標は貧困からの脱出であり、政情の安定となる。政情が安定し、経済成長が始まると、子どもの数は減り、平均寿命ものびていく。つまり、人口ピラミッドが<タル型>になる。図からも明らかなように、働き盛りの層が多く、その安く豊富な労働力を背景に経済はますます成長する。アジアの新興工業国(香港・シンガポール・韓国・台湾など)は<タル型社会>の前期であり、日本は末期である。日本のように<タル型社会>末期になると、高齢化の上昇に伴い、労働市場の要請で女性の社会参加が進む。それと同時に今までは家族が担っていた育児や老人介護が大きな社会問題になり始める。<タル型社会>は、やがて<ツツ型社会>に突入する。<ツツ型社会>は高齢者が多い成熟社会であり、社会の価値観が「ものの豊かさ」から「心の豊さ」を求めるようになる。高齢化率の高いヨーロッパ社会が生活指向であるのは人口動態と無縁ではない。<タル型社会>には、中央集権型(経済史上型)が向いており、ツツ型の高齢社会には地方分権型(「生活と経済」両立型)が適している。”人口動態が、その時々に社会が何を求めているかをおおまかに決めている。

◆細かい社会事象についても高齢化率の影響が

さらに、ジェンダーをめぐる事柄など細かい社会事象についても、高齢化率の影響は強い。いま日本では、ドメスティック・バイオレンス(D.V.)がクローズアップされている。日本の高齢化率は16.2%である。岡澤憲芙教授によれば、スウェーデンでも高齢化率16%の時、D.V.が問題化された。D.V.はそれ以前にもあった問題だが、高齢化率16%くらいで、顕在化しやすいということだ。
この様に個別の問題についても高齢化率を比較し、スウェーデンなどから学ぶことは有益だ。それによって私達は、複眼的に解決ヘのヒントが得られると思うからだ。しかもスウェーデンなどが実行して失敗した点からも、私達は学べる。
スウェーデンのことを述べてきたが、北欧では国境を越える協力や政策の学びあいが盛んだ。前出の吉武さんも、政治のあり方、生活などだいたい似ていると考えてよいと言われていた。従ってスウェーデンのみならず、他の北欧諸国からも学ぶことが多いと思う。

◆果たして日本は

高齢化率は、文化や国民性よりも社会に強い影響力を持つということである。それは人口動態の必然からだ。
しかし逆にいうと、その時代の要請を軽視すれば、手痛いしっぺ返しがあるのではないか。表1で著者(斎藤弥生・山井和則)も述べている通り、高齢社会から超高齢社会になるまでスウェーデンでは55年かけて、システムを整備してきた。日本では、15年しかない。が、果たして現状でいいと言えるのか。
皆さんは、高齢化率による社会規定という考え方を、どう思われただろうか。それは、一線上的な見方で可笑しいと思われる方もいるかも知れない。それぞれの社会はそれぞれの発展をすると考えた方がいいとの反論もあるかも知れない。
私は、もちろん社会によってさまざまな発展のしかたを模索していいと思う。が、人口動態からのこの考え方は説得力があり、今後、見逃してはならないと思う。なぜなら、いま、そしてこれから、何を社会が要請しているのか、見分けやすいと思うからだ。
高齢化率が社会をおおまかに規定する。この考え方からも私は、いまなぜ北欧か、北欧から学ぶことがいかに大切か、強調したい。

5.北欧で強く思ったこと

  ここでは、北欧で強く感じたことをお伝えしたい。

◆『ひとりひとりの国民の問題』

岡澤憲芙教授が旅の間、何回もいわれた言葉である。いままで日本では、リーダー論議が盛んだった。だが、リーダーだけ取り替えても世の中よくならない。ひとりひとりの国民が変わっていく必要がある。だからこそ、市民運動が大事だということを、一緒にいったメンバーで語り合った。彼によると、スウェーデンでも、確かに優れたリーダーたちが引っ張っていった。しかし市民がよきリーダーを支えられるくらい成熟している必要がある。
日本に住む者として、在日外国人の方々と共に、私もそんな市民の一員であろうと思った。

◆教育の大切さ…男性がごく自然に保育に関わる

皆さんに映像でお見せしたいくらい、紹介したいエピソードが多くあるが、ここでは教育の大切さなどを感じたエピソードを紹介しよう。
デンマークの公園で出会った二人の男性の保育士さん。色とりどりの服を着た可愛い園児たちといた二人の保育士さんが、どちらとも男性だったのだ。20歳くらいと40歳くらい。前出の吉武さんによると、良心的兵役拒否者が保育士として働くことも多いそうだ。思わず駆け寄って私は話しかけた。
「こんにちは。日本からきたんですが、少しお話していいですか。保育の仕事は、自分から選んだのですか。それとも兵役を拒否したからですか」
「僕は子どもが好きだから、自分から選んだんだよ」
もうひとりの男性も、ニコニコして聞いている。
「日本では、男の保育士さんはとても珍しいのです。なぜ保育士になったのですか」
「なぜって、僕達はそう育てられてきたからね」
「写真を撮っていいですか」
「いいよ。日本から来た人は、いつも僕達を撮るんだよ。でも、撮られるのは好きなんだ」
そう育てられてきたからね、の言葉に、彼らが、私の思っていたよりごく自然に保育に関わることになったのだなあ、と感じた。日本でも、子どもが好きなら男性でも自然に保育に携わるようになれれば、と思った。同時に、教育の大切さを改めて感じた。

◆偏見の少なさ

この他にも、肌で感じたことに、“偏見の少なさ”がある。
アメリカに住んだ時、頻繁に感じたことの一つが、残念だが、黄色人種である私への偏見だ。
だから北欧で、どの地へいっても、あの差別的な考え方独特の表情を感じず会話できるのは、爽快だった。都会だけではなく、田舎のスーパーの青年までがそうなのだ。これは、肌で感じられた貴重な収穫だった。
北欧では小さなころから国際理解教育などが整っている。やはり、教育は大切だ。

◆日本が学ぶことは多い

日本ではアメリカのことは知られているが、北欧に学ぼうという姿勢は、まだまだ少ない。
だがそのアメリカと北欧も、最近特にお互い学びあっていると聞く。
北欧は、やはり日本とは違うから・・・私はそう思いながらも、今回の旅に出かけた。北欧はユートピアではないし、また北欧だけがいいのではない。
だが改めて思うのは、これから高齢化が加速する日本が北欧に学ぶことは、非常に多いということだ。

6.これから

◆具体的な代案を

北欧で一番痛感したことは、自分がいかに、経済・財政学・歴史などにうといかだ。
おこがましく聞こえるかも知れないが、私は多くの人と協力しあいながら、どうしても世の中いい方に、変えていきたい。
皆さんの中で、そう思っている方もいらっしゃるのではないだろうか。
変えていくためには、批判や情緒論だけではなく、クールに状況を分析し、具体的な代案を示すことは必須だ。そのために私は、いま基本的なことを学んでいる。
現在私は、主婦だ。子持ちの主婦が、こんなことして何になるんだろう? そう考え、悲しくなってしまうこともある。
でも、きっと、何か力になる。
人と協力しながら学んでいこう。そして私は、具体的な代案を提示する力を身につけよう。
いまあなたなら、何についていったいどんな代案を、かかげるのだろうか。

その後愛媛では、環境問題を中心とした市民運動に取り組んできた女性が、県議選で当選した。彼女は、愛媛県初の女性の県議となった。
私は急きょ、この5月から彼女の事務所に非常勤職員として通っている。彼女を通して県政への政策提案に参加していけることが、心からうれしい。
今は、新しい環境に慣れるので手一杯だ。私なんか勤まるのかな、と思ってしまう時もある。でも私は、自分の能力も人格も高めて、他の人とともに彼女を支え、強力にしていくのだ。
今度、土曜講座の方々とお話する時には、愛媛で何が変わっているだろうか。
甘いと思われるかも知れない。でももう私は、わくわくしているのだ。■

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