〜総合学習プロのスタートにあたって〜
プロジェクトリーダー 小寺昭彦
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★(1) 総合学習プロジェクトとは
先号の土曜便りに掲載された上田氏の「21世紀の初頭に、こんな活動をします」の中にも紹介されたように「総合的学習の時間での科学教育プログラム開発プロジェクト(略称総合学習プロ)」という長ったらしい名前の企画がスタートすることになった。科学技術と社会とのかかわりについて、土曜講座がこれまで蓄積してきた情報や経験を活かして、学校で実施されることになる「総合的学習の時間」に使ってもらうことのできる具体的な科学教育のプログラムを開発し、私たち自身で授業を受け持つこともできるようにしよう、という企画である。本号から適宜その取り組みについて具体的な話を進めていきたい。
現在の教育現場には私のような部外者にも判るような大きな変革期が訪れている。知識を受け入れ使いこなす能力を養成してきた従来の学歴社会型教育の枠組みを残したままで、社会の構造変革に伴い求められている主体的で創造性のある人間を育成する教育が実践されるまでにはかなりの試行錯誤が必要と思われる。来2002年より完全に導入される「総合的学習の時間」(以下総合学習)もそうした試行錯誤の一つとして位置づけられるであろう。総合学習は、旧文部省によれば『これまでとかく画一的といわれる学校の授業を変えて、
(a)地域や学校、子どもたちの実態に応じ、学校が創意工夫を生かして特色ある教育活動が行える時間
(b)国際理解、情報、環境、福祉・健康など従来の教科をまたがるような課題に関する学習を行える時間として新しく設けられるものである。この時間では、子どもたちが各教科等の学習で得た個々の知識を結びつけ、総合的に働かせることができるようにすることを目指している』そうである。現実がその様に動いているかどうかは別にして、可能性をもった期待される試みであろう。
個人的な総合学習への期待を整理してみると大きく分けて二つある。その一つは従来の課程に欠けていた視点をもった教育の実践である。とくに私が関与している環境教育面で、既にこの傾向を顕著に見ることができる。ゴミのリサイクルやEMを用いた食物循環についての学習、これらに加えて自然観察などが各地の学校で盛んに行われるようになってきている。そしてもう一つは学校と地域の繋がりの強化である。校外でも良く行われる自然観察に限らずまちづくりや福祉に関与する総合教育は、これまでややもすると閉鎖的になりがちだった教育現場と地域,NPOなどを結びつける好機と捉えることができるだろう。
今回のプロジェクトは私のこうした期待とも密接に関わっている。先号小林氏が概説しているように環境問題をはじめとする多くの社会問題の背景に科学技術の要因があることは明らかである。これに対応するためにアメリカの理科教育現場では、"Teaching Science"(科学そのものの内容を教える事)と"Teaching About Science"(科学とは何かを教える事)を別けて取り扱うようになってきているが、日本では総合教育の場においてでさえ科学教育を取り上げていない。そういった意味でも土曜講座が掲げてきた「科学技術に関連するさまざまな社会問題をさまざまな角度から取り上げる」というコンセプトは、これまでの教育課程では顕現化していなかった視点であろう。他方土曜講座のこれまでの取り組みはまず市民,それも意識をもって働きかけてくる市民が対象であり、そうした人達にとっての啓蒙効果は大きかったと言える。しかし、真にこういった科学技術と社会の問題について成果を求めるのであれば従来の枠を出ての活動も不可欠である。このように土曜講座のシーズが教育現場の潜在的なニーズと一致しているのである。さらに、前項に書いたように市民活動をおこなってきた人間が教育現場にはいる意味も大きいだろう。本プロジェクトは学校にとってはもちろん、土曜講座にとっても新たなノウハウの獲得につながる挑戦なのである。
さて、それではこの「総合的学習の時間での科学教育プログラム」というものはどういったものとなるのであろうか?実はこのプロジェクトはまずこの点の議論からはじめなければいけない。これまでに判っていることはこのようなプログラムは少なくとも国内には存在しないと言うことである。といっても、ゼロからのスタートではなく熱心な先生方による個別の実践例,環境教育のノウハウ,海外の同様のプログラム,そしてもちろん土曜講座での蓄積など参考にできる材料は十分にある。こうした素材をもとに、これまで述べてきた背景も含めて目的,教育成果,カリキュラム,アクテビティなどを実践の中でプログラムという形に仕上げていくことになるであろう。具体的なイメージを持っていただくために、これまでのプロジェクトの計画案を以下に記載する。
1.プログラムの獲得目標(教育成果)を摺り合わせる。
(例)・科学技術が日常生活にどの様に関わっているかを知る。
・科学技術のリスクとベネフィットをどう評価すべきかを考える。
・科学技術の影響と、技術的な原理を理解する必要性を感じる。
・科学技術が引き起こした結果特に負の面について知る。
・我々が科学技術社会をどのように生きるべきかを考える。
2.具体的な授業内容(アクテビティ)を考えて土曜講座のメンバーによるシミュレーションを行う。
(例)・携帯電話の社会性,経済性とリスクを考える
・いろいろな立場で水俣病を考える
3.先生方に教育現場の提供を御願いしシミュレーション済みの内容を実践する。
4.2〜3にわたりフィードバックを繰り返しながらカリキュラムを作成する。
5.最終的なプログラムに仕上げて事例集またはセミナーなどを通じて教育現場に提供する。
★(2) これまでのプロジェクトの進捗
現状はコアなメンバーで議論を行いながらプロジェクト発足の準備をしている段階であるが、本プロジェクトの実践に際しては何よりも教育の現場に携わる方の協力が不可欠である。これまでにたたき台の企画書をもとに、横浜市などの地縁を活用して実際の先生や関係者に働きかけて、このプログラムについての意見交換を行うと同時に実践を行う場所を模索している。こうした情報交換の結果として、横浜市教育文化研究所で行われている市立中学の先生方による環境教育の研究会へ参加できるなどの成果も出てきている。同時に、このプロジェクトが現場の先生方に受け入れられるためには、今以上にメンバーが学校の状況を理解しそれに即した形でプログラムを整えていく必要があるだろうという事も痛感している。理想を追うだけでなく“やる気”を喚起させる内容的な魅力と斬新な方法を備えた無理のないプログラムを作ることができるかどうかであろう。今後も進捗に会わせて土曜たより,メーリングリストを通じて報告を行う予定である。ぜひ購読者の方々のご意見とご協力を仰ぎたい。
★(3) 購読者の方へお願い
購読者の方々、特に中学・高校・大学の先生方から見て、この提案がどのように見えるのか、率直な意見を募っていきたいと考えています。そのために1ページの広報に示した要領で「総合学習プロジェクト」の発起集会を行います(4月14日(土)午後2時より「科学技術社会と総合教育−−私たちの提案」)。購読者である先生方,教鞭をとっていらっしゃる方々で関心を持ってくださりそうな人々(私塾の先生なども歓迎します),これまでの土曜講座に足を運んでくださったりした方々。皆様のご参加を心からお待ちしています。また当日ご参加いただけない方でもご意見やプロジェクトへの参加希望がありましたらご連絡いただけますようお願い申し上げます。■