「サイエンスショップ」って何だろう ?

春日匠
(NPO法人サイエンス・コミュニケーション、大阪大学コミュニケーションデザインセンター研究員)

●「サイエンスショップ」って何だ ?

 2005年 2月に一週間ほどヨーロッパの SSの現状を見てきたので、その報告を含めて、ヨーロッパでは SSがどのように展開されているのかをお話したい。 SSに関する情報はインターネットで公開されているものが多い。例えばヨーロッパでは SCIPASという SSのネットワークを作っている団体があり、この団体によるレポート「サイエンスショップとは何か」は、SSの概要と現状の研究を紹介している(www.scienceshops.org)。

もうひとつは「INTERACTS」という研究グループのレポートもご紹介したい。こちらは、SSのクライアント側についてのレポート。これら 2つのレポートがSSの現状を知るうえでは役立つと思われる。いずれもPDFファイルとしてダウンロードロ可能である。2006年 8月頃に SSの職員の養成についての第 3のレポートが出る予定である。これらは欧州委員会の予算で研究がされているが、この 3つで一応完結するということなので、比較的参照しやすくなるのではないか。

 さて現在、SSのヨーロッパの連合体が行っている学会や研究会が、2年に 1回のペースで開かれている。第1回 SS研究会は SSのルーツであるオランダで開催され、第 2回は 2005年 2月にスペインのセビリア大学で行われた。ここには欧州の研究センターがあり欧州の研究団体の拠点ともなっている。ここでのレポートなどを含めながら SSの実状などをお話していきたいと思う。

 欧州全体を見て「科学コミュニケーション」という運動は一般的に盛んだが、SSはヒッピー文化の強いオランダで始まったということも関係して、若い人たちを中心としていることが多い。そのため科学コミュニケーションや STSの運動の中では比較的、“左より”に位置する運動という印象を受ける。
 
では、SSとは何か考えてみる。SCIPASレポートの定義によると、SSとは一般の人の興味関心に基づいて研究・活動するもので、その研究の際には市民自身による参加型であることが理想的であるとされる。その特徴として 4つ挙げられる。


特徴 1.「SSとは、科学者が市民社会の要求をベースに 研究・開発を行うことを促進するための組織で
ある」

特徴 2.「一般に、大学の付属組織として設置されるか、NPOの形態がとられる」

特徴 3.「他の市民や NPOからの研究課題の提示を受け、それを適切な専門家にマッチングすることが主要な業務となる」

特徴 4.「企業からの委託研究との違いは、非営利組織の形態がとられることで、一般市民や NGOなどのようなクライアントか
ら人件費・研究費は徴収しない」


 以下、この 4つのポイントについて詳しく見ていきたい。


●市民からの研究委託


特徴1.「SSとは、科学者が市民社会の要求をベースに研究・開発を行うことを促進するための組織である」

 このことは一番重要なポイントと思われるが、なぜこうしたことが必要だと言われるようになったのだろう。

 今日、日本に限らず世界的に、大学やそこにおける研究に対する信頼が薄れている状況がある。この原因のひとつとして考えられるのは、学問や研究が生活に結びついたものであるという意識や、学問的な研究が生活の質を向上してくれるという信頼感が失墜しているから、という点が挙げられる。そのため全世界で、大学と市民の関係性が見直されようとしている。本来、大学や学問研究は市民や生活に密接に結びついているからこそ重要であるはずで、市民の関心を学問に結びつけることによって、再度信頼とサポートを引き受けようということが重要となってきている。このような見方からも SSの活動は注目され、見直されつつある。

 実際の活動として SSではどんな研究が行われているのだろうか ? 具体的な研究例として、オランダでは、学生によるマグネシウム製造工場におけるフィージビリティ研究がある。この場合、民間のコンサルティング会社の調査では地域での経済的貢献度が高いと判断されたが、それに対して学生の研究結果はそれとは逆の結果が出た。また、有機農法へ転換が図られた地域があったが、その際には有機農法の知識や情報などの提供がなされる。(表1参照)

 ところで、英語で SSと呼ばれているが、オランダ語では Wetenschaps Winkelであり、この Wetenschapsはドイツ語のヴィッセンと同じく“知識”という意味である。そしてオランダでは、必ずしも自然科学に限らず、環境アセスメントや法学的な問題などまで含むような総合科学的、包括的な調査・研究がなされている(英語でScienceと言う場合は日本語と同様「自然科学」のニュアンスが強いので、英語圏でも「自然科学だけ扱う」と思われていることが多いが、これは誤解である)。例えば、教会の修復技術と基金募集のプログラムを総合的に提案するとか、オランダ語手話の教材開発といった例がある。

大学院教育との連結も重要なポイントで、妊娠に関する市民からの質問を SSで集約し、それが学生の博士論文になる、といったこともある。SSは学生を動員しているため、人数確保ができ、症例の収集がしやすく、疫学的研究も比較的進めやすい。

 ボランティアや学生を動員した疫学研究は、アメリカでの事例に多く見られる。特にマイノリティーの健康問題に関する研究が多い。マイノリティーが直面する問題に対する研究費用は少なく、それをカバーするためにボランティアや学生団体による研究が行われるケースが多い(工場廃棄物調査、インディアンの喫煙率の調査、水質調査など)。SSは主にオランダで使用されている呼称で、アメリカではコミュニティ・ベースド・リサーチ(CBR)と言われる。名前が違うのはルーツが異なるからだが、活動内容はあまり変わらない。


●大学付属か、NPOか

特徴2.「一般に、大学の付属組織として設置されるか、NPOの形態がとられる」

 ヨーロッパ、なかでも特にオランダの大学では、ほぼすべての大学に最低でもひとつの SSが組織されている。また世界最古の SSがあるユトレヒト大学などでは、各学科・学部ごとに設置され授業に取り入れられている。NPO型は、アメリカがルーツであるが、ヨーロッパのいくつかの地域でも見られる。例えば、オーストリアのウイーンなどは大学の数が多いので、いくつかの大学が合同で SSを作っている。

 大学にひとつの場合もあれば、各学科・学部に設置されている場合もあるが、大学に設置された場合は、大学行政や教員の教育義務と関連づけることで、大学の知的、設備的、人的資産を利用しやすくなる。一方で、研究というのはその専門家がいなければ対応できないわけであり、大学の規模によって専門範囲が縮小されてしまうという場合もある。それに対して、独立型の場合は、諸大学の情報を幅広く提供可能であるが、各大学の教員の協力はボランティア・ベースになるため、十分な研究体制を整えることは容易ではない。

 活動方法についてはいろいろなものがあるが、単に仲介するのみの場合や、SS自体が研究に積極的に関わっていくもの、あるいは市民を巻き込んで研究をすすめる市民参加型などの形態が見られる。世界には多種多様なSSの形態が、あるがこれらを総じて SSと呼ばれている。 オランダは大学と SSの統合度がもっとも高く、盛んに活動が行われている。ユトレヒト大学では通年の授業として SSが取り入れられている。学生は、市民によって提供されたテーマを、一人もしくは複数人のグループで引き受け研究する。そのテーマの専門の教授がアドバイザーとして付き、研究の質を保証している。そのほかにも、研究方法のための基本的事例が提供されるなどして授業が進められる。.スライドの風景(写真)はちょうどコースの最終段階のものであり、ユトレヒト大学の広報部長が、プレスリリースの仕方を学生たちに教えている。ここでは例えば、プレスリリースを出す場合、その書き方や、どういったメディア媒体の使用が可能か、等が論じられている。研究成果は必ずユトレヒト大学の広報誌で発表し、その質が高ければ地元紙や TV局などに扱ってもらえることもある。


●誰が、どんな研究をするのか ?

特徴 3.「他の市民や NPOからの研究課題の提示を受け、それを適切な専門家にマッチングすることが主要な業務となる」

 SS職員の重要な役割としては、研究テーマを NPOや市民から収集すること、さらにテーマを適切な専門家やクライアントにマッチングさせることなどがある。テーマの収集元は、例えば労働組合、宗教、環境、地域産業、小規模産業などの地域団体である。基本的には、非営利団体の活動に対して事業を提供する。クライアントに経費を求めずに、また研究結果がクライアントのみに帰するものではないような公共性の高い研究がなされることも、SSの主な目的である。

 またオランダにおいては、小規模産業など半営利団体からの課題も引き受けるが、誰でもレポートを閲覧することができ、研究成果を享受することができるという形になっている。例えば、車椅子の改善というテーマのもと研究がなされ、機能の改善がなされたときは、その改善成果はすべての車椅子に対して活かすことができ、公共性が担保される。審査をパスしたレポートは出版され、公開されるため、誰でもこれを閲覧・購入することができる。 ユトレヒト大学のポリシーのひとつに、政党や労組といった政治結社や、小規模企業などの営利団体からの依頼も受けるが、個人からは受け付けないことがあげられる。個人の研究依頼は研究結果の落としどころが見つけにくいため、メンバー一人でも団体を作ってもらい、そのミッションを明確にするという作業が必要であるとのことであった。この「緩やかな代表制」という感覚は、日本で馴染みがない新しいものであろう。これに対して北アイルランドのケースは、完全な非営利団体からのみ受け付ける。これは、北アイルランドという非常に複雑な政治問題を抱えている地域ゆえの制約であろう。

 現在、SSはオランダ(ユトレヒトとフローニンゲンが大きい)を中心としてヨーロッパ中に広がっており、東欧にも広がりを見せている。2001年からの 5カ年計画「第 6フレームワーク・プロジェクト(FP6)」によって EUが積極的に東方地域にも SSの活動を広げるとしたことから、ハンガリーやルーマニアなどの東欧にもSSは拡大している。

 SSは 70年代にベトナム戦争に反対する運動からオランダに起こったという歴史を持っている。アメリカのCBRも似たような歴史を持っている。日本においても当時、反戦と公害の問題が盛んに取り上げられていたが、このような動きは世界中に見られ、科学者、知識人等の前衛運動として盛んだった。その反戦と公害の問題に対する運動がオランダとアメリカにおいては、現在の SSの形態で継続しているが、他の地域においては発展せずに運動が弱まっていったと考えられる。

 80年代に入るとオーストリア、デンマーク、イングランドなどに SSが設置される。現在も SSの活動は、北欧、ドイツ語圏、イギリス圏などで盛んである。一般的に、市民参加型の運動は英語圏、オランダ、北欧あたりで非常に盛んである。それに対してラテン語圏、例えばフランス、ベルギー、イタリアやスペインにおいては根付きにくいと言われる。SSにおいてもこの傾向が顕著に出ているかと思う。

 90年代に入ると、韓国、南アフリカ、マレーシア等のアジア諸国でも起こるが、これらは現在は活動を停止している。2000年に入ってから、SS運動は EUのプロジェクトにより予算も付き、ベルギーやフランスでも再度、盛んになっている。韓国にも新たに団体ができた。 2005年 2月段階で日本にも設置されていることになっているが、これは目標あるいは宣言のようなもので、空約束にならないように前進せねばなるまい。

 ところで先にオランダとアイルランドの違いについて触れたが、SSは、地域によって方針や活動の進め方に差異がある。したがって日本においても、どのようなSSの活動が適切か、ということは随時考えていかなければならない。


●誰のための研究なのか ?

  SSには基本的に、以下の 3種類の受益者がいると考えるべきである。

・市民セクター(市民・NPO)

 このグループが SSの主要なクライアントになるのであって、大学の知的・人的資源を使用できるのは大きなメリットである。

・大学(大学そのもの・研究者・学生)

 これはさらに三つに分けられ、学生、研究者、そして大学そのもののメリットがそれぞれに考えられる。学生にとっては、OJT(On the Job Training)の重要な機会になる。大学の授業は教室に囲い込まれがちであるが、SSを通して現場とのつながりを学ぶことは重要である。特に新たに EUに参加した東欧諸国について、EUなどもこの効果に大きく期待しているようである。統合されたといっても、教育能力は先進国に比べると不十分であり、しかも予算が少ないという状況の中で、研究・教育能力を底上げするために比較的低予算で有効なソリューションとして位置づけられる SSが期待されている。このような点から、EUでは特に東欧の大学に SSを設置することに積極的になっていると言われている。ただし、各地域の政府がこのようなことを望むかというと、必ずしもそうではなく、各国家と EU間の意識の相違をどのように解決するかは、今後の課題となっている。

 研究者にとっては、ピア(同業者)以外の視点と評価の機会を得ることができるのがメリットである。研究者の評価は原則としてピア・レビュー制度に依存するが、これはしばしば研究の蛸壺化を招くと批判される。SSなどで外部の視点を取り入れることは、研究開発に新たな地平を切り開くかもしれない。

 大学そのものにとっては、地域との連携を強化したり、大学の個性を地域社会に認知してもらうという、一種の宣伝効果が見込める。大学において強い専門分野やテーマを打ち出せると言うことは非常に効果的な PRになる。地域との連携強化は、SS的な方法論を導入することによって地域活性化のもつながる。このような点をアピールしていけば、日本においても SSを導入しようという大学が出てくるのではないかと予想している。

・社会全体の公益

 最後に、大学ないし NPOの事業として実施される以上、社会全体にとっての利益、つまり公益性が重要になる。この点は、次にあげる特徴 4にあたる。


●公益性、公共性とオランダ・モデル

特徴4.「企業からの委託研究との違いは、非営利組織の形態がとられることで、一般市民や NGOなどのようなクライアントから人件費・研究費は徴収しない。」

 つまり、公益のための活動であるということが、SSにとって大きなポイントなのである。 では、クライアントから研究費を徴収しないとなるとどこから取るのか、ということが最大の問題となってくるが、アメリカの場合は、公的助成団体が多い。これに対して、ヨーロッパ(オランダ型)においては、大学の予算内で SSは運営されている。オランダ型の場合、SSが有効に機能するかというのは、大学側がいかに制度を整えるかが重要である。オランダの場合は大学に SSがあることは当たり前なので、人々の意識も高い。けれども例えば、北アイルランドでは、SSはスタートしてから 5年ほどしか経過しておらず歴史は浅く、学生のアドバイザーとして協力してくれる教員を見つけるのも容易ではない。また、研究のアウト・プット面も未だ発展途上であり課題も多い。

 なぜオランダで SSが発達し、それ以外の多くの地域ではそういった問題意識は失われていったのだろうか ?

 これにはオランダの文化が深く関係していると考えられる。オランダではワークシェアリングが発達し、キャリアパスの一部に NPOの活動を含むことも高く評価される。また、「3人のオランダ人がいれば 4つの政党ができる」と言われるように、政治的な議論を戦わせることにも積極的である。

 こういった社会のあり方は、しばしば「オランダ・モデル」と呼ばれる。オランダ・モデルの背景としては、市民自らが行動する「自治と討論の伝統」があるということが、まずあげられる。スペインの支配を脱し、イギリスとの闘争のなかで、「自治と討論の伝統」は築かれてきた。そのため、NGOなどの活動が重視されるに至ったと考えられる。また、オランダは低地にあるため、土木工事が欠かせない。日々市民が創意工夫をして協力し合い、土地のメンテナンスを行っている。このようなことも関係していると思われる。

 1980年代、日本が経済面で「一人勝ち」を続けていた時代、オランダ社会は「オランダ病」とも呼ばれる出口の見えない不況にあえいでいた。北海油田を基盤にした金満財政(60年代)から石油価格暴落後の不況へ(70年代)という状況のなかで、国家財政も逼迫しており、失業率は 12%にも達した。

 この状況を克服するために、いくつかの対策がとられたが、もっとも重要なのがキャリアパスの多元化である。パートタイムと常勤雇用との時間当たりの賃金と社会保障の差をなくし同一にするというワークシェアリング (同一雇用・同一賃金)へ移行した。この点は、オランダ・モデルの一番のポイントと言われる。このシステムが、オランダ経済をよみがえらせるとともに、共働きで 2人で 1.5人分働き、残りの時間を地域や社会への活動にあてるという生き方を可能にし、NGO活動を活発化させた。

 実際の世界の状況として、科学の問題が複雑化して発生しているということも、SSやコンセンサス会議、サイエンス・カフェなどが求められる要因である。こうした参加型政策決定の方法論は、多くの場合イギリス、北欧、そしてオランダのような直接民主制の伝統を持つ地域から生まれてきて、フランスなど他の地域に広がっていっているのが興味深い。

 参加型モデルの普及には、問題のグローバル化とニーズの多様化、問題の複雑さと発生速度などが密接に関わっている。有権者が 4〜 5年に一度しか政策へ意見する機会が与えられないという間接民主制の限界が露呈するに伴って、新しい民主制が求められていることがある。では、新しい民主制とは ? 間接民主制や議会制民主主義においては、有権者は選挙の時に権利を行使するにとどまり、統治者に任せるしかない。そのような中で、BSE などに見られるように、諸問題がグローバル化し、突発的かつ生活に密着した形で発生する状況にあっては、迅速で適切な対応は困難となっている。それらの問題は、選挙の単位である国民国家の枠だけでは解決が難しいし、数年ごとの選挙で論じるには状況の変化が早すぎるのである(4年後に BSE問題がどういう状態になっているか予測するのは誰にとっても不可能だろう)。

 80年代であれば、政治は関税や雇用といった経済問題を中心に語られていたが、現在は上記のような問題点があるため、科学と技術、食、環境など、より生活に密着し、答えが一通りではないような問題を焦点にすえるようになった。この状況下で民主主義の改善は不可欠と考えられる。このことをアルヴィン・トフラーも言及しており、二つの改善策を提示している。

・専門知識を持った圧力団体を形成し、常に問題が論じられている状況を維持する

・直接民主制の機会を増やし、住民投票などによって活性化させる


 実際は直接投票というのは資金的にも、また問題を少数の選択肢に収れんさせるという作業を考えても容易ではなく、いわゆる「中間団体」を増やすという第二の選択肢が現実的と言えよう。近年、国際的に NGOの活動が活性化してきたことは、その例である。そして、問題がグローバル化していくに伴って、世界的なネットワークをテーマごとに構築する必要がある。 また、政策論争を行うにはエヴィデンス(科学的根拠)に基づいた政策立案が求められるのは当然であり、研究能力を持たない NGOが政策提言を行えるためのシステムの基底として、SSのような活動が求められる傾向にあるといえる。NGOの専門性の向上が求められていて、例えば、実際に政策提言が行えるような NGO活動の土台となる SSの役割が重要になっている。このような役割を担える SSの活動は今後、重要さを増すのではないか。


●第三世界での参加型開発

 最後に、第三世界の事例についても触れておきたい。インド南部のケララ州などが、住民参加システムの盛んな地域である。たとえ GDPが低くとも、教育と分権化で社会開発が可能であることを示している。ケララ州では州予算の 40%が村落自治議会に委ねられているため、社会インフラが発達していること特徴になっている。例えば、病院の数を見ると、インドの他の州では 30ヶ村に 1つ程度が普通だが、ケララ州では 2ヶ村に 1病院ある。乳幼児死亡率なども先進国に近い値である。一方でGDPは、最近上昇傾向であるものの、90年代半ばまではネパールと同等であった。

 もちろん、単に予算の 40%を村落にあてるだけで問題が解決するわけではなく、大きな力となったのはKSSPという、60年代から活動を続ける科学者と科学ジャーナリスト団体である。この団体は、出版活動をはじめとして、識字運動や啓蒙活動、住民参加の科学教育、科学プロジェクト活動を展開してきた。こうした住民の意識と知識を高めるための活動の結果として、住民の自主的な取り組みが成功したのである。KSSPが出版する子ども向け科学雑誌は、毎年 1号はすべての記事を子どもたち自らが製作するなどの工夫によって、会員数 4万人を越え、KSSPはケララで広く受け入れられた団体になった。そうした結果が今日の住民自治の成果に結びついている。

 このように、住民が自らの興味関心や問題意識で科学について考えてゆくという運動の中で、SSはいかに位置づけられ、実際に活動してゆくことができるのかという論点は、世界的に見ても重要なのである。


【春日さんと会場の質疑応答より】

Q:科学的なデータ採集・計測の問題について、SSで果たして科学的に正確な研究が可能なのか、また、何らかの新しいことができるのか ?

A: SSでは、大規模に計測等を実施できることが強みになっている。自発的に、多数の人が参加し計測している。環境問題や疫学などある種の分野では、多量のサンプルを採集できるということ自体のみでも、研究として大きな価値が出てくる側面がある。

Q:日本での SSに関する動向について教えてほしい。

A:熊本大学などで現在始動しつつある。宮城大学にもSSと銘打っていないが類似の機関がある。大阪大学でも準備中。日本での最も大きな問題は、予算。また、SSの枠に入らないとしても NPOなどが主体となった活動はいくつか見られるが、それらのあいだでの情報交換・情報共有はなされておらず、この点も大きな課題である。

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