市民による学習、研究調査、運動の重層的な実現から
みえるもの (5/7)
6.社会問題解決のための4機能
市民科学研究室の活動の現状と今後を記述する中で、科学技術社会の問題の解決をはかるための要件についてその輪郭を示唆することができたと思うが、ここでさらに、新たな機能類型を用いてより詳細にその要件を明らかにしてみよう。
NPO活動が社会的に有効に機能するためにはおそらく次の4つの特性を備える必要があると思われる(表5)。1つの組織がこれら4つの特性をバランスよく併せ持つ場合もあるし、どれかの特性のみを重点的に備えたNPOが、自分にない特性を持つ他のNPOや組織と連携を築くことで補完的に4つの特性を達成している場合もあるだろう。また、社会の基本的なセクター(政府セクター、企業セクター、学術セクター、市民セクター)が相互の関係性の中でこの4つの特性をどの程度にまで現実に機能させているかによって、社会全体としての問題解決能力の如何を推し量ることもできると思われる。
表5 NPO・NGOが社会問題解決にあたる場合の4つの機能類型
フィールド |
問題発生の現場の当事者としてあるいはそれに深くかかわる代理者として、問題状況を他に知らしめ、解決の必要性を感知させる |
リサーチ |
調査・研究を通じて問題の理解や解決に寄与すると考えられる情報提供や分析や提言を行なう |
キャンペーン |
問題に対する社会的認知を高め、必要な人的・物的・金銭的支援を喚起し、実現する |
ポリティックス |
問題解決に必要な政策的対応(現行の法律や制度の活用、行政セクターによる種々の施策の実行)を考案し、行政側の実施者と効果的に交渉することで実現を図る |
今、この類型をアクター間の役割に見立ててみよう。社会全体でこれら4つの機能がうまく働くためには、どのようなアクターによっていかなる相互の役割分担がなされるべきかを整理した(表6)。「フィールド」をジャーナリストに、「リサーチ」を研究者に、「キャンペーン」をロビー活動を行なうNPOに、そして「ポリティックス」を議員あるいは関連行政セクションに割り振ってみるなら、おおよそ表6のような相互関連が必要であると想定できるだろう。これらの相互関連のどれか一部でも欠落したり希薄化したりするなら、社会全体としての(今挙げた4つのアクターによって担われるべき)問題解決能力は低下するだろう。
表6 4つの機能が有効に働くために相互の間で求められる関連
(●はそれぞれの機能をアクターで代表させた場合の例)
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フィールド(F)へ |
リサーチ(R)へ |
キャンペーン(C)へ |
ポリティクス(P)へ |
フィールド(F)
●ジャーナリスト |
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F→R:活動を喚起する報告の作成 |
F→C:機能を発揮させる広報媒体の提供 |
F→P:政策的対応の要請、問題の政治的争点化 |
リサーチ(R)
●研究者 |
R→F:現場からの発信内容を自らの課題として位置付ける対応 |
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R→C:調査結果を活用して広く社会的問題提起につなげる能力 |
R→P:現行の政治経済システムの中で有効に機能する政策の提言 |
キャンペーン(C)
●ロビー活動を行なうNPO |
C→F:現場への人員派遣 |
C→R:現行のアカデミズムの状況を把握した上での的確な調査依頼 |
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C→P:効果的な圧力をかけること |
ポリティックス(P)
●議員あるいは関連行政セクション |
P→F:引き出した施策の実施への取り計らい |
P→R:政策的展開を見据えた調査依頼 |
P→C:政策的展開を取り込んだ運動戦略の立案への寄与 |
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STS領域においてNPOがなすべき活動とその特徴を、これらの機能の4類型に沿い、市民科学研究室の活動を例にとって、具体的に検討してみよう。「電磁波PJ」の活動を例に挙げて、市民科学研究室の活動全体の特質を浮き彫りにし、市民科学の成立の要件を探ってみる。
7.市民科学研究室「電磁波PJ」の活動概要
電磁波PJは現在(財)消費生活研究所からの助成を受けて、「携帯電話端末ならびに基地局がもたらす電磁波リスクへの政策的対応に関する研究」をすすめている。
携帯電話が爆発的に普及する中、携帯端末ならびに携帯基地局(タワー)からの高周波電磁波の人体影響が懸念されている。専門家の間ではそのリスクに関して意見が分かれており、有効な疫学調査もほとんどなされていない。ことに日本では若年層への普及が著しく、将来的に大きな健康被害を被りかねない若者が、そのリスクを自分自身で判断できるように、情報が的確に提供されなければならない。そこで市民科学研究室の電磁波PJでは、携帯電話(端末、基地局)のリスクや政策に関する諸外国の情報や、自身の実地調査(電磁波計測ならびに健康影響アンケート調査)によって使用者の現状を把握するためのデータを収集し、それらを比較分析することで、携帯電話について「予防原則」に立った適正な政策的判断を促すための基礎事項を明らかにしたいと考えている。
こうした目的で調査をすすめる中で明らかになってきたのは、たとえば身近に林立している携帯基地局についてほとんどまともな情報公開がなされていないという現状であり、海外では多くの健康影響研究が相次いで発表されているにもかかわらず、それを的確にレビューして必要な調査研究をすばやく組織化していく体制が日本には存在しないという政策システム上の欠陥である。
携帯電話端末については、約1300名を対象とする大規模なアンケートを実施し、携帯電話の使用状況と使用者自身が感じる健康面でのいくつかの徴候との間にいくつかの相関があることを見出している。また、携帯基地局(タワー)については調査項目として、(1)タワーの仕組み(電波出力、指向性など被曝量を知るための基礎データ)、(2)タワーの分布(各社タワーの設置数、位置、周辺環境など)、(3)被曝の程度(典型的な地区においての電磁波強度分布の計測)、(4)周辺住民へのタワーの影響(聞き取り調査)、(5)海外の携帯タワー情報(健康影響調査、法規制、住民運動など)の5つを設定し、いくつかの項目については情報収集と解析を終えている。
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