市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

市民による学習、研究調査、運動の重層的な実現から
みえるもの (2/7)

3.市民科学研究室の活動(1)学習部門

 市民科学研究室の活動は学習部門と調査・研究部門の2つから成る。前者は月1度の公開の定例研究発表(「科学と社会を考える土曜講座」)を軸としており、後者はテーマ別に形成されたいくつかのプロジェクトチームが担う。この両者は、後述するように相互に関連しあっている。

定例研究発表は、表向きは一般市民に開かれたSTS問題の学習の場であるが、市民科学研究室のメンバー自身が発表を担当することが多いため、非専門家(素人)が自らの関心に応じて行なう特定のSTS的問題のレビュー、あるいは後述する「プロジェクト」に絡んでなされる独自の調査研究報告の機会になっている。図式的に言うなら、

(a)市民科学研究室が関心を持つ特定テーマに関する、外部の専門家を招いての講演会
(b)内部の非専門家の個人もしくはグループ(アドホック)による特定問題のレビュー
(c)内部の非専門家チームによる特定問題の調査研究(1〜2年継続)の結果報告
の3種類がある。

(b)については、その時々のメンバーの関心に応じてどのようなテーマでも(わずかでも科学技術にかかわりがありさえすれば)取り上げることが原則である。進め方の基本は、特定の問題に関心のある仲間同士の集いやメーリングリストでの予備的な議論を経て、運営会議においてテーマを選定し、担当者(多くの場合2〜4名)を決め、3〜4ヶ月の準備期間中に資料調査と討議を重ね、研究発表当日までに一定の報告と主張ができるようにその成果をまとめる、というものである。現在までに150回ほどの研究発表を行なったが、そのおよそ3分の2がこの自前の発表((b)もしくは(c))だった。文献やインタビューによる調査のみならず、実地見学や問題の現場への訪問の機会を多く持つように努めている(表2参照)。

科学技術リテラシーの観点から重要だと思えることは、科学技術社会問題の広がりに応じて「可能な限り幅広いテーマを取り上げる」という点、そして「どんなに難しそうな話題を扱うときでも、初めて来たどんな人にも分かってもらえるように話す」という方針を貫いている点である。前者は取り上げてきた150回のテーマの多様性に反映し、後者は複数の素人が(専門文献や専門家の力を借りながら)共同で発表を組み立てる中で相互に自由に意見交換と批判を行なうことで確保される。

学習部門のもう一つの形態として、長期にわたって継続して技能や知識の取得に努める「講座」「ゼミ」を設けている。現在は、科学技術社会問題での市民どうしの国際的コミュニケーションを目標に掲げた語学講座(英語ならびに中国語)、グローバリゼーションの問題を考究する「経済ゼミ」が開講している。

また、定例研究発表の中には数回連続の大型の講座として企画されるものがあり、それを担当するチームが実質的にはプロジェクトと同様の調査研究にあたることがある(たとえば、2003年8月9月に予定している連続講座「めぐる水と不思議な土を知る講座」の担当チームがそれに相当)。

 また学習と調査・研究に利用する資料ストックとして、科学技術社会問題関連の主だった一般書籍1000冊程度、10数種類の関連定期刊行物(海外のNPOの機関紙などを含む)、そしてTVで放送されたドキュメンタリー番組の過去10年分の録画ビデオを備えている。

 こうした体制のもとで恒常的な学習を積み重ねることで、自身が取り組むべき(そして取り組むことの可能な)調査研究テーマとその取り組みの方法が見えてくる。内部で醸成されてきた調査研究の気運を察知して、適宜それを具体化するための方策を打ち出すことが組織の運営にあたる者の任務である。市民科学研究室では毎月の運営会議(運営スタッフ約4名が中心)と夏期や冬期の合宿などにおける拡大運営会議(運営スタッフおよびプロジェクトリーダーたち、併せて約10名が中心)の2つの場が、学習と調査研究を運営上で媒介する役目を担っているといえるだろう。

 以上に詳しく述べた市民科学研究室の学習部門は、社会的役割としては先の表1におけるD(科学技術の負の側面やSTS的問題への認識を育てるための教育的実践)に相当する。そして、非専門家が主体となった発表の場に専門家を講師としてあるいは聞き手として呼び入れることで、@(専門家と市民の媒介による問題認識の深化と解決への手がかりの誘導)のきっかけとなり、さらに特定の科学技術社会問題に関心や憂慮を抱く素人の市民がH発表の場での出会いを通して自らが調査研究の主体となる契機をつかむことで、H(市民科学を実践する専門家の養成および市民科学の支援ネットワークの形成)の端緒を与えているとみなせるだろう。

市民科学研究室のウェッブサイト http://csij.org/ には活動の趣旨やプロジェクトの狙いや成果を説明した文書を掲載している。最近のまとまった活動紹介としては『どよう便り』第64号全冊特集「社会が求める“市民科学者”とは」東京大学「科学者との対話」ゼミ(第12回2003年1月15日、東京大学・駒場キャンパス)に掲載した筆者の講演及び質疑の全記録がある。
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表2 市民科学研究室の定例研究発表のテーマの例

2000年10月〜2003年4月の定例研究発表のテーマ(総計150回のうちの最近の26回)
(●は市民科学研究室のスタッフ、関係者らによる自前の発表(14回:うち「レビュー」タイプは12回、「調査報告タイプ」は2回)、★は現地訪問、博物館見学など体験的な機会を含んだ発表(5回))

●私たちは科学館に何を求めるか/●★三番瀬を見に行こう!/・レジ袋はなくせるか 有料化政策の成功のために/●ヨーロッパ環境先進地域を訪ねて/・ 科学技術コンセンサス会議を考える/● 科学技術社会と総合教育――私たちの提案/●★ 体験学習ツアー足助村訪問・伝統技術と近代技術を比較する+琵琶湖博物館訪問/・NPO法人とは何か/・ノーマ・フィールドさんと語り合う/●★埼玉県小川町有機農業&自然エネルギー見学/●高周波電磁波のリスクを考える――携帯電話と東京タワー/●★紙の博物館見学+紙はこれからどうなるのでしょう?/●素人のための疫学入門/・日本の戦後民主主義とアメリカ(ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を読む)/・リスクコミュニケーションのための科学的証拠のとらえ方――電磁波人体影響の最新研究とエビデンス度/●新しい平和活動CHANCE!と持続可能な社会への転換/・米国の軍事科学と日本の基地問題/●★「ノーベル賞の100年」から考える20世紀の科学技術/・科学ジャーナリズムの可能性を探る/・立花隆問題とは何か/●キューバの有機農業を訪ねて/●生物兵器開発とバイオテロリズム/・劣化ウラン――その環境影響を考える/・悩む女性達をとおしてスローライフを考える/・ドキュメンタリー映画『ルーペ』上映会/●宇宙開発を再考する――スペースシャトル事故をてがかりに

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・模索の蓄積が科学を変える
・リビングサイエンス:生活を基点に科学技術を
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これまでの10年をふりかえって
社会が求める"市民科学者"とは
STSから見た物理リテラシー
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はじめに
科学技術社会問題の解決におけるNPOの役割
市民研の活動(1)学習部門
市民研の活動: 調査・研究部門
市民研にみる「専門性」と「横断性」
社会問題解決のための4機能
市民科学研究室「電磁波PJ」の活動概要
4つの機能からみた電磁波PJの活動の分析
まとめ

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