市民による学習、研究調査、運動の重層的な実現から
みえるもの (1/8)
上田昌文(NPO法人市民科学研究室・代表)
1.はじめに
今日、科学技術と社会の間で生じ、対応や解決を迫られている問題は極めて多岐にわたる。そうした問題群を適切に分類し、有効な対応の方向性を抽出し整理していくことは、科学技術社会(STS)論の重要な作業の一つであろう。分類と整理のための表現軸は一通りでないが、問題の内容(コンテンツ)、取り組みの社会構成主体(アクター)、制度・政策対応(システム)に注目し、その3者がどう関連し合うかを考察することはその作業の欠かせない一部になると思われる。
NPOの社会的役割が高まる中、STS領域においても様々なNPOが次第に多種多様な取り組みを展開するようになってきている。上記の表現軸に沿ってみたときに、比較的新しいアクターとして登場したNPOはいかなる特性をもつと言うことができ、STS問題群の解決にどう有効に寄与しえるのか。この一般的な問いを念頭におきながら、本稿では筆者が代表を務めるNPO「市民科学研究室」(旧称「科学と社会を考える土曜講座」)を取り上げ、日本におけるいわゆる“市民科学”の成立要件や、市民が主体となった科学技術社会問題への取り組みの必要性と今後の展開の可能性を考えてみる。
2.科学技術社会問題の解決におけるNPOの役割
科学技術社会問題にNPO・NGOがいかに関与しているかはいくつかの類型を設けて考察することができるだろう。表1に代表例として挙げた個別のNPOは、それぞれの類型が示す属性を強く持ちながらも、他のいくつかの属性を同時に備えている。その組み合わせと度合いにこそ、それぞれのNPOの特徴を読み取るべきかもしれない。
課題への取り組みの特性によって今仮に9つに分類したが、これは上記のコンテンツ、アクター間の相互関係、システムへの関与・働きかけを考え合わせて、さらに整合的な記述が可能であると思われる。表1の事例は国内に限定している。これまで海外の科学技術社会関連のNPOの特徴を体系的に整理分類した研究はなされていない。STS問題の特徴は科学技術のグローバルな性格を反映して、ローカル(特定地域、地方自治体レベル)、ナショナル(国政レベル)、グローバル(国際レベル)の3つの地域特性が密接に連動し合うことであり、その点から考えても、NPOの特性を比較して類型化する作業が、欧米のみならずアジアやいわゆる第三世界をも含んだ世界全域を対象として今後なされる必要があると思われる。
表1 科学技術社会問題へのNPO・NGOの取り組みの類型(◆は代表的な日本のNPOの事例)
1.専門家と市民の媒介による問題認識の深化と解決への手がかりの誘導
(コミュニティ・ベイスド・リサーチ/サイエンスショップ型)
◆国土問題研究会(京都)、(株)環境総合研究所 など |
2.産官学ネットワークの形成による代替政策形成の誘導
(コミュニティ・ソリューション型)
◆自然エネルギー促進法・推進ネットワーク、阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク など |
3.環境保全など公共的価値実現のため新しい生産・消費行動の喚起
◆グリーン購入ネットワーク、生活クラブ生協 など |
4.科学技術の特定領域における市民サイドに立つリスク認知と管理の推進
(自前の専門的調査研究に基づく告発・警告・政策批判・政策提言なども含む)
◆原子力資料情報室、グリーンピース、薬害オンブズパーソン、日本子孫基金、
化学物質問題市民研究会、市民バイオテクノロジー情報室 など |
5.科学技術の負の側面やSTS的問題への認識を育てるための教育的実践
◆様々な環境教育NPO |
6.参加型テクノロジー・アセスメントの手法の開発・導入・定着のための活動
◆科学技術への市民参加を考える会 |
7.行政機能の補完としての特定領域におけるレギュラトリー・サイエンスの実践
◆コントローラー委員会(医薬品問題)、(株)科学技術文明研究所 など |
8.消費者の適正な権利の確立のための専門的支援
◆日本消費者連盟、ささえあい医療人権センターCOML など |
9. 市民科学を実践する専門家の養成および市民科学の支援ネットワークの形成
◆高木学校 など |
表1の中の「コミュニティ・ベイスド・サイエンス」については、Loca Institute “Community-based Research in United States” 1998、「サイエンスショップ」については平川秀幸「専門家と非専門家の共働−−サイエンスショップの可能性」(小林傳司・編『公共のための科学技術』玉川大学出版部2002所収)、「コミュニティ・ソリューション」については、金子郁容『コミュニティ・ソリューション−−ボランタリーな問題解決にむけて』岩波書店1999、科学技術「参加型テクノロジー・アセスメント」と「レギュラトリー・サイエンス」については、平川秀幸「科学技術と市民的自由」(『「科学技術と社会」を考える』科学技術社会論研究第1巻、科学技術社会論学会2002年所収)および中島貴子「論争する科学−−レギュラトリーサイエンス論争を中心に」(金森修・中島秀人・編著『科学論の現在』勁草書房2002年所収)を参照のこと。
科学技術社会問題が多様な広がりと複雑さを備えていることに応じて、その解決にもいくつもの重層的な取り組みが必要とされる。特定の問題の性格に見合った特定の直接的な対処も必要だが、社会全体の底上げを目指した一般市民の問題意識の向上や科学技術政策に関わるシステムの改革も欠かせないことが、この表から見えてくるだろう。
筆者が代表を務めるNPO「市民科学研究室」は、STS的問題を一般市民が自らの関心に応じて取り上げて議論する学習会として1992年に発足したグループが母体となっている。10年を経て、市民科学の実践の場として他にないいくつかの特徴を備え新しい可能性を開きつつあるように思える。その活動を一瞥し、表1で整理した取り組みの特性をふまえて活動の特徴をまとめ、そこから今後NPO・NGOによる科学技術社会問題への取り組みが有効になされるための手がかりを見出してみる。
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