市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

市民からの信頼と支援を得る研究のあり方 (5/7)

市民科学研究室の活動にみる「生活者と専門知」

 市民科学研究室の具体的な活動に即して、生活者と専門知のかかわり、専門家と素人とのかかわりをみてみましょう。

 月に1 度の誰でもが参加できる「市民科学講座」を続けてもう14 年になりますが、これは講師としてお呼びする方々とネットワークを築くきっかけになるだけでなく、市民科学研究室自身が行っている調査研究の成果を公表する場でもあります。最近3 年間のテーマを本稿末尾の表に掲げましたが、約半数は独自の研究発表であることがわかるでしょう。

 次に、市民科学研究室の「プロジェクト」(個別テーマでの調査研究、以下PJ と略記)を説明します。現在7 つあって、それぞれが3 人〜 10 人のチームを作り、毎月1 回か2 回の勉強会を重ねながら研究を進めています。

 「科学館PJ」は、全国にある科学館を大人がもっと活用できる場にするために、科学館の現状を調べ、魅力あるプログラムを開発して提案することを目指しています。2004 〜 2005 年にかけて約180 の科学館を対象に行った「扱いテーマ」アンケート調査では、“生活にかかわる科学”(たとえば食、医療、住まい、防災など)が手薄であることがはっきり示されました[5]。

 「ナノテクリスクPJ」は今、ナノ化粧品の安全性に関する情報を収集し評価しようとしています。最近の報道にもあるように、「グリーンピース」や「地球の友」を含む8 つの環境団体が連名で、ナノサイズの二酸化チタンと酸化亜鉛を含む日焼け止めの生産・販売中止を求めています[6]。リスクは不確定ではあるものの、適切な予防的な対応を促すべく、私たちは必要な情報を市民に提供していこうとしています。

 「低線量被曝PJ」もリスクに関する専門文献の読み解きを主に活動しています。『ECRR』報告書(欧州放射線リスク委員会2003 年勧告)や『BEIRVII』報告書(米国科学アカデミー報告2005 年)などを要約し翻訳しながら[7]、専門家の間でも意見が分かれている低線量放射線リスクの評価を、ICRP(国際放射線防護委員会)のガイドラインの検討を含めて、市民がどのように受け止め対処していくべきなのかを考察しています。

 「食の総合科学PJ」は、専門領域に分断された知見をつないで生活者に必要な情報として加工することを、身近な食材を題材に行っています。栄養学、料理法、食材の由来、農業生産、流通などを総合的にとらえて、今知っておくべき事実をまとめているのですが、現在までに「砂糖」「油」「牛乳」「大豆」「米」を雑誌の連載で扱いました[8]。それと同時に、調理技術の習得(食の自己管理)と科学の学びを統合した、現行の理科教育の代替案となるプログラムを開発し、「子ども料理科学教室」として出前授業などを行っています[9]。

 「宇宙開発再考PJ」は、膨大な予算が投入されるにもかかわらずその使い道や成果の妥当性はほとんど問われないこの領域で、開かれた政策形成をいかにして実現できるかを探り、市民のニーズにあった適正規模の宇宙開発を促すことが目的です。最近注目されてきた「手作り衛星」作りの活動[10] を追いつつ、民意反映型の研究開発の可能性を検討しています。

 「生命操作PJ」は、生命操作技術に対する市民の意見・意思を様々な角度から拾い出し、問題提起と議論の場を作ろうとしています。信頼度の高いウェブコミュニティをとおして220 名の不妊治療体験者を対象にした詳細なアンケートを行い、解析しました[11]。現在は、生命倫理問題の焦点の一つ「着床前受精卵診断」について調べています。

 「電磁波PJ」は、グレイゾーンにあると言われる電磁波リスクを市民の立場から正確に把握し、適正な予防原則的対応を国や企業に促すことが目的です。そのためには、自ら実測したデータと人体影響に関する最新情報をつき合わせて検討することが欠かせません。これまで、東京タワーの放送電波(新聞報道、学術論文、学会発表)、図書館盗難防止装置(新聞報道、報告書)、携帯電話基地局(助成金による研究報告書)、IH クッキングヒーター(報告書)、など対象に調査を行い(家庭内における24時間連続計測も含む)、WHO(世界保健機構)の国際ワークショップなどにも参加し発表してきました。現在は携帯電話電磁波のリスクをめぐって盛んに発表されるようになってきた最新研究をレビューし、リスク評価のための適正な枠組みを考案しようとしています[12]。

 こうした調査研究は、集まった素人たちの素朴な疑問に端を発するとはいえ、必要ならば専門家のサポートを受けながら(あるいは専門家と連携を組みながら)、調査や分析に欠かせない専門知識を要領よく習得していくことが必須となります。他の専門NPO と連携して、そこに蓄積されたネットワークやノウハウを生かすことも重要です。私たちの活動は、たとえ越え難い専門性の壁があるように見える科学技術分野の問題であっても、生活者が自身の生活に即した視点から研究テーマを選び、研究方法を編み出し、調査を進め、その成果を社会に還元していく、という一連の営みが可能であることを示しているのではないかと思います。
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