市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

市民からの信頼と支援を得る研究のあり方 (4/7)

社会問題解決のための専門知の活用

 まず原則的なことを言うと、問題解決のためには次の4 つの位相の活動がどこかでリンクしなければならないと私は考えています。私がこの後で言及する個々の取り組みも、この4 つの位相のすべてをカバーしているものはむしろ少なく、だからこそ他の取り組みと連動させていくことが必要なのです。この類型はそのための視点を提供するものです。

フィールド: 問題発生の現場の当事者としてあるいはそれに深くかかわる代理者として、問題状況を他に知らしめ、解決の必要性を感知させる
リサーチ: 調査・研究を通じて問題の理解や解決に寄与すると考えられる情報提供や分析や提言を行う
キャンペーン: 問題に対する社会的認知を高め、必要な人的・物的・金銭的支援を喚起し、実現する
ポリティックス: 問題解決に必要な政策的対応(現行の法律や制度の活用、行政セクターによる種々の施策の実行)を考案し、行政側の実施者と効果的に交渉することで実現を図る

 古典的とも言える例からふれましょう。1970 年代は公害問題が激化し、科学の「体制化」が指摘され、科学者の社会的責任が鋭く問われ始めた時期だと思えますが、その頃に、市民の立場に立って専門家としての固有の科学技術領域で批判活動を組織的に展開する人々が現れました。その代表例は東大自主講座(1970 〜)の宇井純氏、原子力資料情報室(1975 〜)の高木仁三郎氏、市民エネルギー研究所(1978 〜)の松岡信夫氏、そして現在の「ピースデポ」(1997 〜)につながる国際的な活動を展開してきた梅林宏道氏でしょう。遺伝子組み換え食品、ダム開発、干潟保護、様々な化学物質問題・環境汚染、薬害など、多発する科学技術がらみの問題にかかわって、主に大学人として専門知を活用し、市民運動をサポートしてきた(あるいは市民運動を立ち上げた)人々は、決して少なくありません。ただ、ここで提起したいのは、そうした個別の取り組みで得られたノウハウや経験知を横断的にとらえ、生活者の参加や支援、市民と専門家との協力の進め方といった観点から整理してみることが今重要なのではないか、という点です。

 「生活者と専門家」を共通軸としてとらえることで、現在主にNPO によって担われている組織的な対抗的・批判的研究活動に、他の活動(たとえば、憂慮する学者らが自主的に形成した運動組織、日本学術会議、行政に属しながらその立場を生かしつつ協働する個人、批判的な視点を持つジャーナリスト、民間のシンクタンク)との相互補強的な役割を明確にできるかもしれませんし、また、生活者自身がコミュニティを築いて変革を進める活動(たとえば、生活共同組合運動、分散型エネルギー推進の地域活動、食や住の分野での地域自立型の活動)との連携を強化できるかもしれません。

 また一方で、「生活者と専門家」のとらえ方や「専門知の活用」を多角的に検討することで、政府が組織した専門調査委員会や諮問委員会や審議会のあり方の問題点を明確にしたり、サイエンスショップやCBR(コミュニティ・ベースド・リサーチ)など地域に立脚した大学の「科学相談所」的活動など、まだ日本では制度化されていないタイプの活動をどう立ち上げていくかを探ったりできるでしょう。あるいは欧米諸国で制度化されているが日本にはないものとして、議会に専属するテクノロジーアセスメント(TA)のための専門組織(「技術評価局」のようなもの)がありますが、コンセンサス会議のような政策形成に参照しうる様々な「専門家・非専門家の開かれた対話型パネル」などとあわせて、望ましい制度設計・創出をすることにもつながるでしょう。
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