市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

市民からの信頼と支援を得る研究のあり方 (3/7)

信頼と支援を得る研究の条件

 では、市民から信頼と支援を得られる研究開発とは何なのか、どんな条件を満たすことが必要なのかを考えてみましょう。現代の科学者や技術者は、フリーランスの発明家などを除いて、大半は組織に所属する雇われ人です。その点を考えて、帰属する組織体(大学や企業など)やコミュニティ(学会など)と、科学者・技術者個人の問題を一応分けてみます。

 集団としてみたときの最大の要件は、研究の目的と展開方法と成果の生かされ方が社会的に合意できる「基本的理念」を損なわない、ということでしょう。もちろん明文化された「基本理念」が公的文書に謳われているわけではありませんが、たとえば科学技術基本法の狙うところもまた、次の3 点を前提にせざるをえないはずです。

その3 点とは、
(1) 持続可能性
   (自然環境、将来世代、「南」への負荷の軽減)
(2) 健康と暮らしやすさ
   (健康リスクの軽減、安心と安全の確保)
(3) 社会的公正
   (基本的人権の保障、紛争・戦争の回避、南北間不公正の是正)

です。「基本的」という意味は、今現在あるいは今後どのような研究開発がなされるにしろ、この3 点のいずれかを損なう可能性のある研究開発は支持されるべきではないとみなせるからです。

 科学者・技術者個人について言うと、単に専門家としてこれまでの枠組みに応じた仕事を行うだけでなく、彼または彼女自身もまた一人の「生活者」である点をどう自覚し、組織の中に埋没してしまうのではない形で政治的主体性をどう発揮するかがポイントになってくると思います。それをいくらか具体的に述べると、本来なら、所属する組織やコミュニティが市民・生活者のニーズや懸念に耳を傾け、必要なら対話し、具体的に対応できる何らかの回路を持っているべきなのですが、それが現状では適わないとき、個人として何らかの形で対応していく、ということです。それは、“顔の見える研究者”として、たとえば市民・生活者の懸念に立脚する報道や批判に対して、(所属組織とは独立した)個人の責任において自身の見解を表明できる、ということを意味するでしょうし、それには、自身が取り組んでいる研究の意義について「生活をどのようにより良くすることにつながっているか」という観点から自らの言葉で語ることも含まれるでしょう。あるいは、科学技術政策や研究行政の是非に対する見解を表明でき、それらの意思形成に影響を及ぼすべく何らかの試みをなすことも意味すると思われます。

 ただ、今理念として述べたことがらを具体的な局面に応じて実行できるようにするためには、既存の政策決定システムや諸々の団体の取り組みを見渡し、何が有効に機能しているか、していないか、あるいは何が欠落しているのかを探る必要があります。ここでは、専門家である科学者・技術者がいかなる形で、社会問題解決のために専門知を活用し得るのかという点について、極めてラフにですが、現状を描いてみたいと思います。
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