市民からの信頼と支援を得る研究のあり方 (2/7)
どんなリテラシーやコミュニケーションが必要か
また、最近「科学技術リテラシー」や「科学コミュニケーション」がいろいろなところで取り上げられるようになりましたが、そうした面での生活者のかかわりを整理しておくことも重要です。たとえば一つの類型として、
(A) 技術(製品)の使いこなし
(B) 技術(商品・サービス)の選択のための判断
(C) 科学技術が絡んだリスクへの対応
(D) 科学技術研究開発への意思表示
(たとえば軍事研究を抑制する民意)
(E) 科学技術の内容や発展動向への理解
(狭義のリテラシー)
(F) 専門家とのやりとりにおける意思疎通
(たとえば医師・患者関係)
(G) 問題解決のための専門知の活用
(たとえば干潟保護のための専門調査の実施)
といったことが考えられると思います。
このような類型がなぜ重要かと言いますと、個別の問題を全体状況の中でうまく位置づけてこそ有効な解決策を描き出せるからです。市民科学研究室が取り組んでいる事例で言えば、「中学生にケータイを持たせるべきか」「不妊治療の際に転院を繰り返す患者が多いのは何ゆえか」「私たちは遺伝子組み換え大豆をどれくらい食べているのか」「オール電化住宅は本当に経済的か」「ナノテク化粧品は安全か」「X 線検査はどの程度必要か」といった個別の問題を探るのに、たとえば(A)から(G)のような“かかわりの枠組み”を参照して他の問題との関連をとらえ、そこから解決のヒントを見出していくことがある程度できるのです。
ちなみに、理科教育に一言ふれておきますと、私たちが探っている今述べたような問題に対して、現行の理科教育はほとんど無力なのではないかと感じています。マイクロ波の人体影響の問題を含めて携帯電話のリスクを授業で扱うことはあるでしょうか。性教育の一部として妊娠を取り上げても、不妊治療の現状を知る機会はあるでしょうか(高齢出産が増え、カップルの10 組に1 組は不妊であるとの事態を迎えているのですが)。遺伝子組み換え食品について子どもたちが系統だって学ぶ機会はあるでしょうか。「オール電化」の問題を扱えば、原子力発電による夜間電力の利用の是非に行き着かざるを得ないのですが、エネルギー教育はどこまでこの問題に踏み込めるでしょうか。……といったように、あまり期待できないのではないかと思います。
上記のような問題は、生活に深くかかわるものであるにもかかわらず、適切に判断するための情報を見つけにくかったり、専門家の見解も分かれていたりするものがほとんどです。また、そもそも実態の調査そのものが欠落していることもあります。さらには、ある程度情報が得られても、どこから行動を起こしていけばよいのかが見定め難い場合もしばしばです。
私は、単純なアプローチでは解決を見出せない、科学技術にかかわる社会問題に対しては、生活者の能動的な役割を重視しつつ、大きく言うと次のような3 つの観点からの複層的なアプローチで臨むことが肝要だろうと考えています。
第一は、環境やまちづくりの分野などで目立ちますが、政策形成・決定過程への市民参加の手法の成功事例を、科学技術分野にうまく応用することです。コンセンサス会議など参加型テクノロジーアセスメントの手法も、それ自体の使える・使えないを論じるよりも、他の市民参加手法の具体的な成功事例に引き比べて位置づけていくとよいのではないかと思います。
第二は、専門知への接近と利用、専門家との生産的な対話を市民に可能にする方法をいろいろと考案し試してみることです。大学の図書館を市民に開放すること、最近各地で行われるようになった「科学カフェ」、新聞やTV などが専門家への取材を重ねながら創る良質の記事やドキュメンタリー番組など、いろいろなものが含まれますが、たとえばそうした取り組みとインターネットを用いての意見交換の場を連動させてみるなど、開拓できることはたくさんあるように思います。
第三は、既存の科学技術のあり方や科学知の再編にかかわることであり、リンカーンの名句「人民の人民による人民のための政府」にならえば、今の科学技術を「人民の人民による人民のための科学技術」(science&technology of the people by the people for the people)へいくらかでもシフトさせるためにあらゆる試みをなすこと、です。「市民科学」という概念も主としてこのアプローチにかかわってきますし、「人民のための」という言葉を言い換えるなら、「市民から信頼と支援を得る」ということになろうかと思います。
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