市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

社会が求める"市民科学者"とは (3/4)

東京タワー電磁波調査のこと

やったことは大きく言って今のところ2つあります。そのうちの一つは助成金を使った調査研究です。お金のことを言いますと、私達の活動は購読者からの購読料でまかなわれているのですけれども、それだけでは全然足りません。ですから研究発表をやってそのときの参加者の費用、それから時々カンパしてくれる人がいるのですけれども、そういう人たちからのお金を使います。それでも足りないので、ちゃんと助成金申請を書いて外部の財団などから助成金をとる、ということをしないとやっていけません。たまたま昨年電磁波プロジェクトは「消費生活研究所」というところの助成がとれました。

一つは2001年にやった仕事で、東京タワー周辺の放送電波の電磁波リスクを探りました。

皆さん、携帯電話はたぶん全員お持ちですよね? 携帯電話はよくご存知のようにマイクロ波を使っています。マイクロ波というのは、例えば電子レンジであれば2.45GHzです。携帯電話では900MHzとか1.5GHzとかの周波数を使っています。マイクロ波には物を加熱する効果があって、それ以外にも非熱効果があると言われているのですが、要するに接近させた状態で頻繁に、携帯電話ぐらいの強さのものを常時使っていると、何か人体に影響あるのではないかな、ということで今盛んに研究されています。ただし、それを探るのはなかなか難しいのです。というのは、人体で実験するわけにはいかないから動物でやるのだけれど、当然限界がある。また疫学調査をやるにしても、まだ携帯電話が一般に広く使われるようになってから、そうだなぁ、4,5年ですよね。ですから、長い期間にわたって影響が生じるであろう病気については統計がとれないのです。それもあって、リスクについては白黒はっきりしていません。

私達も携帯電話のリスクについてすごく知りたいのだけども、自分たちで調べることはなかなかできないので、ちょっと発想を変えて、周波数は少し違うのだけれども長い時間曝されていて、同じような“高周波"である放送電波はどうなのだろうか、と考えてみたわけです。で、日本で一番強い放送電波を出しているのはもちろん東京タワーです。その東京タワー周辺でどんなことが起こっているのか調べてみよう、ということで調べたのです。

やり方は非常に単純です。東京タワー-は今全部で23種類の周波数の放送電波を出しています。ですから、それぞれがどのぐらいの強さかということを知るためにはスペクトルアナライザーを使わなければならない。しかしスペクトルアナライザーは残念ながら大学の研究室か民間の研究機関しかもっていないし、一つ買うのに少なくとも200万円ぐらいする。これは私達には無理でした。本当は測りたかったのですが。だけれども、もう一つ別の方法がありまして、それは、周波数を区別せずに30MHzから3GHzまでの周波数のものを合わせて強度を拾えるメーターがあるのです。それも80万円くらいします。それをたまたま貸してくれる人がいまして、それを使って東京タワー周辺の255個所場所を決めて、大体港区全体をカバーする形で歩き回ったんです。それをメンバー4人でやりました。最終的にはメンバー2人、私ともう一人大学4年生の学生さんとが中心になって計測をしました(計測に要した日数は全部で約2週間)。

それをまとめて、解析して、それでリスクにまで話を進めるには、要するに病気の統計を調べなければならないので、保健所に残っている過去のデータを全部拾ってきてそれをグラフに表して、統計処理をしてそれが「統計的に有意かどうか」ということをみたわけです。

途中で11月に朝日新聞に大きく出て、そのために電話がいっぱいかかってくるということがあったのですが、最終的には学術論文にまとめました。さらにリスクのことも含めて、学会で発表しました。そういうことがあったので、一応専門家の目に曝すことができたし、論文を作る過程で専門家の意見も聞くことができたので一つまとまった研究になったな、と思っています。トップに戻る

東京タワーの周辺はどれくらいの電磁波の強さか? 

高い値のところもありますよ。とんでもないところがありまして、飯倉交差点というところがあるのですが、そこはいまだに理由が分かりませんが、 100μW/cuもあります。100μW/cuってどのくらいの強さかというと、携帯電話は機種によってぜんぜん違いますが、低いので10とか20、高いので400とか500とかいくことがあります。電子レンジの真ん前に立ってそこから漏れてくる中のマイクロ波の強さを測りますと、およそ20から30は最低ありますね。古い機種になると100とか200ぐらいあります。ですから、ここの東京タワーの周辺で照射される放送電波の強さというのは電子レンジからちょっと離れたぐらいの強さなのです。なにが気になるかと言うと、24時間ずっとその強さの電波を浴びているという点です。それが体にどう悪いかははっきりわかりません。だけど、それぐらいの強さであることは確実なのです。

緩やかな基準としては、

* アメリカ(ANSI)〈1989〉:1000μW/cu(100〜300MHz)
* イギリス(NRPB)〈1989〉:1000μW/cu(30〜400MHz)
* 国際機関(ICNIRP)〈1989〉:200μW/cu(10〜400MHz)
* 日本(総務省)〈1997〉:200μW/cu(30〜300MHz)
200→1000μW/cu(300〜1500MHz)

厳しい基準としては、

* ロシア〈1984〉:2.4μW/c (30〜300MHz)
10μW/c (300〜300000MHz)
* イタリア:10μW/c (30〜30000MHz)
* スイス:4μW/c (900MHz)
* 中国:6.6μW/c (900MHz)

各国が持っている高周波に関する基準値で考えてみます。日本では周波数でいくと300MHzあたりでは基準値が200μW/c 以上になるのです。つまり、東京タワーはOKなのです、日本の基準でいくと。アメリカなんかはもっと高くて1000μW/c です。ところが、イタリアは厳しくて 10μW/c です。ということは、東京タワー周辺半径400m以内あたりにはイタリアだったら人が住んではいけませんよ、ということになる。スイスや中国の基準値はもっと厳しくて4とか6とかなんですね。ということは東京タワーの周り半径800mとか700m辺りまではだめですよ、ということになる。

なんでこんなに基準値が違うのかというのは、これはこれで面白い問題で、もちろん高周波の生物影響メカニズムについての知見が確立していないからということはあるのですけれども、厳しい国ほど予防原則的な考え方を採ろうとしているわけです。つまり、白黒はっきりしないリスクは、できるだけそのリスクを抑えておくように対処しようという考え方です。だけどそうじゃない国もあって、ぜんぜん違う。ただ、例えば東京タワーの放送電波がこういう強さの分布だってことは、じつは私達がやるまで誰も明らかにできなかったのです。やってみれば単純なことなのだけれども誰もやらなかった。

じつは海外でも何件か疫学調査が行われていますので、それをちょっと述べておきます。イギリスをはじめ、疫学調査の論文が全部で10件ぐらいでています。私達はそれを全部読んでまとめてみて、東京タワーと比較できるかどうかを調べました。そうすると、小児白血病に関して発症率があがるというデータもあるけれども、でもよく調べてみたら調査方法に批判があったりとか、地域を拡大してみたらだめだったりとかで、いろいろ問題があってじつはこれも白黒はっきりしません。そういう結果が見えてき、なかなか解釈が難しい。

それで私達は東京タワーについてどうやって調べたか? 残念ながら日本では全国統一のガン登録がなく、少なくとも東京ではガンの発症率をデータとして拾い出すことができない。それで私達は非常に困ってしまって、死亡率で調べるしかないね、ということで、港区の保健所に行って、ずいぶん昔のワラ半紙に手書きで記された統計報告書もあったのですけれども、それらをめくって、写して、全部つなげてみたのです。そうすると、東京タワーができた1959年から 20年間の港区の小児白血病の死亡率と全国のそれとを比べてみた結果、港区の方が少し低い値が出たのです。それは、理由は幾つかあると思うのですけれども解析しきれません。

小児白血病は1970年代終わりぐらいまでは不治の病と言われていました。それになると必ず死ぬ、という病気です。ところがそれ以降治癒率が上がってきて、今現在は小児白血病で死ぬのは10人のうち3人ぐらいなのです。ですから死亡統計だけを見ても小児白血病が起こったかどうか推測することはできない。これが何よりも大きな限界です。また港区で小児白血病に罹ったとしても、港区で死なないだろう、という推測ができます。つまり、小児白血病は特殊な病気だから、区外の集中的な治療のできるところにみんな引っ越しちゃうかもしれない。

シドニー
調査範囲、調査期間: 北部 半径4km、1972〜1990
最大電波強度: 8μW/cm2(1km付近)計算値
小児白血病発症率1.8倍、死亡率2.4倍
他の研究者より反論あり

サットンコールドフィールド(英国)
調査範囲、調査期間: 半径10km、1974〜1986
最大電波強度: TV1.3μW/cm2、FM5.7μW/cm2(6km範囲で)計算値
小児白血病発症率1.83倍(死亡:扱っていない)
同じ研究者による地域拡大調査では、発症率と死亡率に有意差なし

サンフランシスコ

調査範囲、調査期間: 半径8km、1973〜1988
最大電波強度: 20μW/cm2(3km以内で)計算値、一部実測値
小児白血病発症率1.26〜1.77倍(ただし21歳以下)、「電磁波被曝量の大小と発症率の増加の間に相関あり」
他の研究者による別の解析手法で有意差なし

ホノルル
調査範囲、調査期間: 半径4.1km、1979〜1990
最大電波強度:(記述なし)
小児白血病発症率2.0倍(95%信頼区間0.6-8.3)
有意差なし

ローマ
調査範囲、調査期間: 半径3.5km、(期間は記述なし)
最大電波強度: (記述なし)
小児白血病発症率:(記述なし)
死亡率(SMR)2.5倍、全国平均の死亡率との比較
東京タワーの場合の統計データ解析と同じ手法

放送電波に関しては今後もいろんな研究がなされると思います。デジタル地上波が近く導入されようとしていますし、一説によると東京タワーを機能強化して電波も強くするという計画もあるようです。ですから、私たちのやった仕事は、放送電波のリスクというものを考える際の手がかりになるものだと思います。トップに戻る

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自前の研究発表で貫いている二つの原則
調査研究のためのプロジェクト
新しく発足したプロジェクトや勉強会

東京タワー電磁波調査のこと

東京タワーの周辺はどれくらいの電磁波の強さか? 

市民で探る、携帯電話電磁波リスク
どのようにして専門領域に踏み込むか
市民の主体性によって成り立つ“市民科学"
学生の皆さんとの質疑応答 (Q&A)



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