市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

月刊「市民科学」

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2008年11月発行の「市民科学」の第20号

【巻頭言】 イタイイタイ病提訴40周年を学生たちとともに

林 衛 (富山大学人間発達科学部・市民科学研究室監事)

 北陸の地に本務を得、学生たちと市民科学や科学コミュニケーションの活動を試みるようになって2年半がすぎた。富山にきて最も驚かされたことの一つは、富山市内にある桂書房さんとのであいである。とにかく、同出版社サイトからラインナップをみてほしい。10年、20年、50年……たったときに、価値が上がることはあっても、下がるはずのない書目ばかりがずらりと並んでいる。しかも、東京の大手学術書出版社と比べて、大部であっても値段が1000円、2000円も安いのに気づく。

 なかでも注目は、この10月に最終版がでたばかりの『カドミウム被害百年 回顧と展望』だ。表紙に、「イタイイタイ病の記憶(改題)」と添えられているが、2002年12月に『イタイイタイ病の記憶』初版(238ページ、2000円)がでたあと、わずか6年足らずのあいだに、増補改訂版(330ページ、2400円)、新版(427ページ、2800円)、今回の最終版(616ページ、3800円)へとなんと3回も増強を繰り返しているのだ。著者の松波淳一氏は、イタイイタイ病(以下イ病と略記)や北陸スモン、京都水俣病、「もんじゅ」差止め裁判に取り組んできた弁護士である。

 ところで、本2008年は、3月にイ病患者と遺族代表第一陣が三井金属工業を提訴、5月には厚生省(当時)がイ病を公害病であると正式に認めた1968年からちょうど40年にあたる。といっても、イ病問題が終了済みの過去のできごとになったわけではない。ではここで、「アースデイとやま2008」(6月15日に富山大学で開催)のさいに学生たちが運営した「イタイイタイ病展示&フリートーク」クイズに挑戦してみてほしい。この用紙を手にし、展示をみてもらいながら来場者と運営学生と語りあうきっかけとできるによう工夫を試みた問題が並んでいる。もちろん、桂書房刊の『イタイイタイ病の記憶』(新版)に刺激され、学生たちが用意したものだ(ちなみに、富山でも東京でも、ほとんどの学生たちは「骨が折れて痛い」「神通川」「カドミウム」という「正解」3点セットを社会科の四大公害病の学習で身に付けている)。 

 冒頭のQ1から悩まされる回答者は少なくないようだ。戦後の高度経済成長にともなって社会問題となった公害の典型だとの理解からいえば昭和になるが、いつまでさかのぼれるのだろうと。新聞記事に「婦中町熊野地区の奇病」とイ病がはじめて取り上げられたのは1955年だが、神岡鉱山による鉱毒は明治後半には農業や漁業に打撃を与え社会問題となっている。厚生省の推定では、明治末期あるいは大正期に最初のイ病患者の発生が考えられるという。

Q4は、カドミウム腎症によってカルシウムの再吸収が障害され、骨が脆くなり、進行すると全身に骨折がみられるようになるという、イ病の病像の基本に関する問いだ。イ病の認定が始まって40年近くがたつが、いまだに何がカドミウムによる健康被害(これこそミニマムのイ病のはず)なのかという問題にすら決着はついていないことに、回答者は学生とのやりとりによって気づかされる。イ病の病像が未確定であるために、骨をとり出し脆さを調べるという負荷の大きな診断法をとらないばかりにイ病と認定されず、不服審査を求める方がいまもいる。Q5の「正解」は200人足らずなのだが、公害問題としてクローズアップされる前に亡くなった方や、未申請、未認定の方を含めれば、この数字は、実際のイ病患者の一部でしかない実態にも想像が及ぶ。

 神通川下流域では、環境基準クリアではなく自然界値をめざした水田の環境復元事業と神岡鉱山への毎年の立ち入り調査を含む発生源対策によって、日本で最もカドミウム含量の少ないレベルの美味しい米作りをとりもどせた。ところが、日本や世界全体をみると、食品中のカドミウム許容量の1.0から0.2ppmへの国際基準の見直しが議論されているにもかかわらず、ニッカド電池用などのカドミウムによる水田などの環境汚染、労働災害が続いているのだ(かつて「工業用」に転用された富山のカドミウム汚染米が最終的にどう消費されたのかも気になる)。

 地域住民、医師や弁護団などの専門家が共同して取り組んできた富山の成果が生かされているとはいいがたい。多くの解説も、社会科授業にみられるように肝心な問題に届いていない。3月までの完成をめざし、学生たちと、これら問題を紹介するくわしいウェブページ制作を進めている。■

◆図
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