市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

月刊「市民科学」

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2008年6月発行の「市民科学」の第17号

【巻頭言】消費者ニーズは「食の安全」に繋がるか?

山寺久美子(市民科学研究室・理事)

 表示偽装問題や餃子毒物混入事件以来、食の安全性に関する話題が絶えません。しかし、どれも必要以上に危険性ばかりを誇張されセンセーショナルに伝えられるだけで、私たち消費者は内容を建設的に議論する機会も持てずにいるように思います。そうしているうちにまた、次の奇抜なニュースが飛び込んできます。そんな感覚にあまりにも慣れてしまっているのではないでしょうか。

 マスコミがなぜこのような危険ばかりを誇張した報道をするのか、その根本には、消費者を意識した「売れる記事」を書かなければならないという宿命があると言えます。また、いち早く警鐘を鳴らす使命がそうさせていると言うこともできるでしょう。科学ライターの松永和紀さんは、新聞記者時代の経験から、マスコミのセンセーショナルな記事がどのようにしてつくられるのかをその著書の中に書いています。そこには、科学的事実を記事にするのが実は非常に難しいことや、解明されていない事柄が多い中で安全であると断定する記事を書くのが不可能であることなど、マスコミが抱える苦悩についても言及されていますが、その一方で、仮説を事実にすり替える報道や、リスクではなくハザード(危険の原因 リスク=ハザード×起きる確率)をことさら強調する報道が、意図的にあるいは関係者に知識がないために無意識に行われている現状が指摘されています。このような良心的とは言えない報道が飛び交うなかで、本当に有用な情報を見抜くことは大変難しいと言えます。しかし見抜く努力をせずに目立つ情報のみを鵜呑みにすることは、科学的視点を欠く誤った認識を持つことに繋がります。そして、その誤った認識が消費者ニーズに反映されるとすれば、結局は私たちにしっぺ返しが来ることになると思うべきではないでしょうか。

 日本人は世界一注文の多い消費者と言われているようです。細かい注文をつけるうえに安さも求めるため、売り手から敬遠され、最近では国際市場において中国・ロシア・バングラディッシュといった新興国にも買い負けしているということです。国内市場においても、この高い消費者ニーズに、サービスを提供する側は疲弊しているように見えます。そしてそれが結局、消費者自身の首を絞めることにもなっているように思います。

 フードチェーン(農場から食卓まで食品に関わるあらゆる組織のこと)の中でも、消費者は一番意識される存在です。食品業界には「売れる食品」をつくるという宿命があるため、しばしば、本当の意味での安全性や品質向上以上に消費者ニーズが優先されます。その結果、消費者にとって思いも寄らぬ不利益が生じることもあるようです。例えば、保存料と合成着色料が良い例です。食品添加物は総じて消費者からの悪評を買っていますが、その中でもこの2つは特に嫌われている存在といえるでしょう。そのため、食品業界では「保存料・合成着色料不使用」の表示をすることで商品に新たな付加価値を持たせようという動きが加速しています。しかしそれはむしろ、保存料・合成着色料以外の食品添加物の使用を増加させている側面もあります。そして、それらの代用品には、安全性に劣るものや、保存の効果が弱いために食品の大量廃棄に繋がるものもあるようです。しかし、だからといって食品業界が悪いと単純に切り捨てられる問題ではないと思います。ここにあげた食品添加物や農薬は、食の安全性に関する話題の中では往々にして悪役となる存在ですが、そもそもそれらの使用は、消費者ニーズを反映した結果とも言えるからです。それらなしには、食べたいものがすぐに手に入るような便利な食生活はありえません。生活の中にどこまで便利さを求め、またリスクをどこまで受け入れるか、そのことを冷静に考えていく必要があります。またそれと同時に、常に低価格を要求する消費者のあり方も、考え直さなければならないでしょう。私たちは、価格が安いことにあまりにも慣れてしまいました。安さを求め続けるということは、本当に質の良いものを駆逐していくことでもあります。そして国内の身近な生産者・製造業者を生活できない状態に追い込んでいるのです。それは、安心・安全を遠ざけることであると考えるべきです。

 私たちを取り巻く食の現状をより理解することが、消費者にも要求されています。生命維持の根本である食であるにもかかわらず、私たちは食料生産・製造についてあまりにも知らなすぎるようです。消費者も一緒にそれに参加する気持ちで、買い支え、考えていくことが大切だと思います。 ■

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