市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

月刊「市民科学」

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2007年10月発行の「市民科学」の第10号

【巻頭言】食の「安全」と農業の未来

山寺久美子(市民科学研究室理事)

 解凍するだけで食べられる弁当向けの冷凍食品がよく売れているそうだ。レンジで温める手間もいらず、弁当箱にただ詰めるだけで昼には丁度食べ頃になるらしい。家庭内での料理もずいぶん簡略化されるようになった。90年代後半に頭打ちになった外食に変わって、最近は中食(コンビニ弁当やデパ地下の総菜など)の割合が急増している。外食に比べ低価格であることや、孤食が増えたことが主な理由だという。外食や中食など出来合いのものに頼った食生活は、内容の分からない添加物・ポストハーベストにより汚染された安価な輸入食材・遺伝子組み換え食材などのリスクの高い実体の見えない食を氾濫させている。表示偽装や残留農薬などの不安なニュースは、このような食生活の延長線上にあるようにも見え、私達消費者が変わっていく必要性も強く感じる。「食の安心・安全」を得るには、食に関する幅広い知識を得ることや、料理の手間を惜しまない努力が必要であると思うが、それらと共に、普段あまり注目されることのない日本の農業について真剣に考えることが大切なのではないか。

 スーパーで買い物を済ませるごく一般の消費者にとって、農業は遠い存在かもしれない。しかし、何気ない日々の消費は、日本の農業のあり方について強力なメッセージを発している。最近スーパーでよく目にする「有機JAS」マークと「トレーサビリティ」表示のついた食品は、安全を求める消費者に人気があるが、それらに派生する農業の問題について少し考えてみたい。

 最近、お手軽価格の「有機JAS」が増えている。これは安価な輸入有機JASが増えていることによる。もともと有機JASは、有機農産物の国際商品化に向けてつくられた基準であるため、国産品と輸入品の扱いは区別されていない。そして実は、有機JASのかなりの割合が輸入品である。(平成16年・農林水産省の調査によると、輸入有機JASは国産有機JASの約10倍)中国産野菜の残留農薬問題の影響もあり、国産野菜に安全なイメージを抱いている消費者は多い。しかし今後この有機JASの存在が、国産有機だけでなく国産農産物自体の脅威となることが予想される。安全を求める消費が、逆に輸入を促進することになるのである。その先の日本の農業のことをどれだけ意識して、消費者は有機JASを選んでいるだろう。

 「トレーサビリティ」は生産・流通の履歴であり、直接商品の安全性を保証するものではない。しかし、そこに記された生産者の名前や顔は消費者に信頼感を与えており、スーパーでは人気商品となっている。さて、そのトレーサビリティ制度は、多額のコストと労力負担が必要であるため大量生産・大量消費がひとつの原則となっているが、そのことで地場の良心的な農家を地元のスーパーから追い出してしまうことがあるという。地産地消を守れないこの制度は、本当に有益なものといえるのだろうか。農家と直接コミュニケーションをとれる地場野菜の直売所では、そもそもこの制度が不要である。長距離輸送とは縁がない新鮮な野菜を手に入れることや、身の回りの自然環境を守ることなど、地域の農業の果たす役割は大きい。今後このような農業のあり方こそ大切にするべきではないか。

有機JASマークやトレーサビリティ表示のついた商品が、実際に「安全」であるとは言い切れない。有機JASには、実は約30種の農薬の使用が認められており、その中には毒性を疑われているものもある。トレーサビリティは、先にも述べた通り、安全性を目指した生産がなければ、ただの生産履歴でしかない。しかしこれらの制度は、消費者に対して“「安全」であれば、それで良いのか。”という問題提起をしている。輸入への依存度が高い日本の食生活が生み出す環境負荷や、いずれ来るであろう地球規模の食糧難からも、日本の農業を早急に再生させることは必須である。私達消費者が安全に対する認識をさらに深めることは大変重要だが、それと同時に将来を見据えた消費を考え、身近な農業と繋がっていく必要があるのではないだろうか。■

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