月刊「市民科学」
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2007年6月発行の「市民科学」の第6号
【巻頭言】インターネットを活用した科学知識のよりよい提供
―WHO電磁波プロジェクト「超低周波電磁界の環境健康クライテリア」を例に
上田昌文
市民科学研究室ではきたる7月21日に市民科学講座「科学映像メディアと市民〜TV、インターネット、映画の生かし方・作り方」を開くが(今号4ページ参照)、私がこの東京でのセミナーと夏の富山での合宿セミナーで探ってみたいことの一つは、インターネットを活用して一般市民が、たとえば環境や健康のリスクにかかわるような問題の理解と解決に必要な科学知識を上手に取り込んでいくために、ほんとに役に立つサイトというのはどんなものであり、そこに画像や映像をどのように活用していくことができるのか、という点だ。
日々、科学の専門知識に関連する様々な情報を収集しているが、そんな中で出会った多くのサイトのうちとりわけ優れていると思えるものには、各々のサイト独自の特長や工夫があると同時に、どれにも共通する“見る者を引きつけ探ってみようとさせる”ことへの一歩踏み込んだ仕掛けがあるという気がしてならない。情報の量的蓄積を高めることがその利用度を高めることにきちんとつなげられていること、情報の信頼度と偏りのなさを担保するための一定の手続きをふんでいること、インターネットならではの動画や図解を効果的に用いていること、そして膨大な情報に適切な階層的構造化と相互の関連づけがなされていて非常に探しやすく(ページを読み込む者が今自分がどこにいるかがはっきり分かるように)なっていること、などがその共通点と言えるだろうか。
たとえばごく最近の「家電の電磁波法整備を WHO初の国際指針で勧告」というニュースを取り上げてみよう(『東京新聞』2007年6月18日朝刊一面)。紙面では《WHOは、具体的な規制値は示さなかったものの、日本や米国などでの疫学調査から「常時平均0.3−0.4マイクロテスラ(テスラは磁界や磁石の強さを表す単位)以上の電磁波にさらされていると小児白血病の発症率が二倍になる」との研究結果を支持。「電磁波と健康被害の直接の因果関係は認められないが、関連は否定できず、予防的な対策が必要だ」と結論づけた。》となっているが、ではこの疫学調査の意味合いや各国の対策の現状を知ろうとすると、どこのウェブサイトを参考にすればよいか?
そのためには、電磁界の物理、健康リスクにかかわる医学生物学、規制政策のしくみなどをわかりやすくかつ手際よく、そして偏りなく正確に示されねばならないが、残念ながら日本ではこの要請に応えようとしていると言えるのは、手前味噌になるが「babycom」のecologyのサイト(筆者が監修を務める)と、「電磁波なび」くらいだろう。英語の情報に目を向けると、たとえば、
(1)NRPB(英国放射線防護委員会)が提供する動画解説サイト「At-a-Glance」の「Electric and Magnetic Fields」で、電磁界の物理の基礎的理解を得ることができる(市民科学研究室で日本語の音声入りバージョンを作成済み)
(2) SAEFL(スイス環境森林景観庁)が作成したパンフレットの『環境中電磁スモッグ』(Electrosmog in the environment 2006)(翻訳物は市民研サイト)では、世界でおそらく一番進んでいるだろう電磁波規制法を導入したスイスが市民向けに多くの図解を用いて基礎知識を解説し、対策の必要を説明している(今号の3ページを参照)
(3)Greenfacts(ベルギーのNPOが運営するサイトで、環境と健康に関するきわめて膨大な科学的事実のうち専門的吟味を経たものを整理し、わかりやすく提供している)の「Power lines」の項によって信頼できる情報の概要を把握できる(Greenfactsについては次号で詳しく紹介し論じる予定)
(4)Environmental Health Perspective(米国の国立環境衛生科学研究所が発行する、公衆衛生の月刊総合誌、すべての記事・論文が公開される)のサイトで「EMF(電磁界)」「Childhood Leukemia(小児白血病)」などで検索すると、有用な総説論文や解説記事が得られる
といったサイトに出会うだろう。彼我の差は歴然としている。これはインターネットの環境と利用度の差であるよりも、科学知への市民の能動的かかわりを社会が重視しているかどうかを反映しているように思える。科学知識をいかに提供するかという形の中に、提供する者の民主主義に対する尊重の度合いが見て取れる、と言えはしまいか。■
2007年6月発行の「市民科学」第6号 