市民科学・リビングサイエンス|市民科学研究室

月刊「市民科学」

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2007年3月発行の「市民科学」の第3号

【巻頭言】タミフル服用と異常行動
  〜インフルエンザを知り、薬の濫用を避けることが肝心

上田昌文

  抗インフルエンザウイルス剤タミフルをめぐって事態が紛糾している。3月20日に新たに報告された10歳代の2事例(表の17、21)を受けて厚生労働省は、タミフルとそれの服用後に生じた異常行動との因果関係については認められないとしつつも、従来「安全性に問題はない」とする姿勢から一転して、10歳代への使用を原則禁止することを打ち出した。それ以前に同省が公表していたのは、表の4、13、14、16の4つの死亡事例のみだった。さらに同省はその翌日、死亡には至らなかった10代の9件、そして死亡3件を含む成人での7事例の報告があったことを明らかにした。

 NPO法人医薬ビジランスセンター(浜六郎理事長)がすでに2年も前から、タミフル服用後に異常行動を起こす恐れがあると警告を発していたこと、また昨年7月に結成された「薬害タミフル脳症被害者の会」が11月に厚生労働省に安全対策の強化を求める要望書を出していたことを思うと、同省の対応はあまりにも遅いと言わざるを得ない。さらに、因果関係の究明を託された研究班の主任研究者を含む3人が、タミフルの輸入販売元の中外製薬から寄付金(総額7600万円)を受けていたこと(しかも同省の担当者はこの寄付金から研究費への流用を容認していたという)が発覚して、同研究班が導いた「因果関係なし」の主張にも大きな疑いの目が向けられることになった。

 同省は、01年2月の発売以降に報告があった約1800件の副作用を再調査すると約束し、さらに研究班からは上記3名の研究者をはずすことを決めたが、信頼性の回復は容易ではないだろう。一方、この問題で批判の急先鋒に立つ浜六郎氏は研究班の報告書のデータを再解析して「因果関係は十分に説明できる。初回服用後数時間の時間帯をみると、飲まない場合よりも4−5倍から12倍、異常行動を有意に起しやすく、事故死7人も統計的に有意」と断定し、「タミフルの承認取り消し・回収」を訴えている。

 異常行動との因果関係の究明はむろん重要だし、副作用については発症事例をすばやく調査して予防的な警告を発していくことは当然なのだが――しかしたとえば子どもがインフルエンザ感染でタミフル非服用の場合に、意識障害・行動障害などが出ていても、それを親がなんとか取り押さえて、大事に至らず報告されないケースも少なくないだろうから、精密な疫学調査はなかなか難しいだろう――タミフルの薬剤としての性質に目を向けるなら、普通の体力を持つ10代や大人に使用することがそもそも適当だったのかという疑問が浮上する。

 インフルエンザウイルスの感染に有効なのは、今のところ自身で作られる抗体だけであり、感染後に病院へ行っても本来は意味がない。ワクチン(予防接種)が重視されるのはそれ故だ。タミフルはインフルエンザを予防できないし、ウイルスを撃退することもない。ウイルスの増殖を妨げ、高熱をやわらげ、発熱期間を1日程度縮めるだけだ。ただ、ウイルスの増殖が抑制される間に、人の免疫はウイルスという異物を認識し応戦する作業を進める。その余裕を与えてくれるのがタミフルだ。発熱もウイルス撃退の一つの応戦プロセスとみなせるので、タミフルを解熱剤的に使うことには問題がある。

 タミフルは、鳥インフルエンザの流行からもその発生が懸念されている、致死率の高い新型インフルエンザに備えて備蓄がはかられてきた(ただし、新型が流行する事態を迎えた時にタミフルがどの程度有効かどうかはわからない)。この懸念は世界共通のはずだが、日本の処方数は突出していて(2006年の年間販売量は1080万人分)、なんと世界の全体の4分の3を占める。2005年のFDA(米国食品医薬局)の調査で、タミフルによる異常行動の報告例がほとんど日本に集中している(米国5人、ドイツ2人などに対し、日本は95人)のも、この適用対象を限定しない“濫用”からくるとみて間違いない。

  タミフルの副作用事例を精査して公開し、その適用を限定し、服用が望ましい場合にもリスクを最小限にする方策を明確に打ち出すべきだろう。■

※表はhttp://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070322ddm041040133000c.html
( 3月22日毎日新聞掲載のもの)を参照

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