月刊「市民科学」
それぞれの号に掲載されている記事・論文の全文は、
市民科学研究室の会員になると「会員のページ」からダウンロードできます。
2007年1月発行の「市民科学」の第1号
【巻頭言】衛星放送用巨大送信アンテナ群が
マンション密集地域に出現か
〜アンテナ建設の差し止めを求めて住民たちがスカイパーフェクトを提訴〜
予防原則や企業の社会的責任の面からも注目を
上田昌文
あなたの住まいの目の前に、衛星放送用の巨大な送信アンテナがいきなり立つとしたら、あなたはどうするだろう?

【出典】http://www.ab.auone-net.jp/~fmt/skphp2.htmより
道行く人々の誰もが携帯電話で電波を飛ばし(全国で約9800万人が使用)、マンションやビルの屋上に携帯基地局アンテナが乱立する(全国で約11万基が稼働)なかで、私たちはおそらく電波を使うことに次第に鈍感になってきているのかもしれないが、さすがに自宅の目の前に、基地局や巨大アンテナが立つとしたら、気がかりだろう。「あれは一体何だろう? 電波を出すらしいが、身体に悪い影響を与えはしないのだろうか?」……事前にほとんど説明らしい説明もなしに、建設の開始が告げられたりすれば、居住する者としての権利を無視されたと感じ、24時間放射されるだろう電波に不安が高まるのも当然だと言える。
東京都江東区にある大型マンション(777戸) ファミリータウン東陽」の住民たちが中心になって、この1月19日に、(株)スカイパーフェクト・コミュニケーションズを相手取って、東京地方裁判所に設置の差し止めを求めて提訴した。スカパーがマンションに近接する土地に5階建ての「東京メディアセンター」ビルを建て、その屋上部に直径約8メートルのパラボラアンテナ 12基を設置する計画をすすめているからだ(2月に着工予定)。これは国内最大規模の衛星通信地球局であり、これほどの規模のものがマンション密集地区に出現する例は、海外を含めて、初めてであろうと思われる。
景観の破壊、資産価値の低下、心理的圧迫感などのダメージだけをとっても、「法律に則って正当に手続きすすめている」からといって住民の意向をはじめから除外したやり方が、社会的に容認されるものではないだろう。住民が強く懸念する電磁波の人体影響については、環境アセスメントの観点をふまえて事前にそのデータを公開し検討に付すというならまだしも、「現行の電波防護指針での基準値を超えない故に安全」と述べることに終始していては、企業側が住民の理解も納得も得られないことは当然だろう。現に、これまでも携帯基地局設置をめぐって地元住民と事業者とのトラブルが絶えず、その総計は100件を超えている。
事業者が申請し所轄官庁(この場合は総務省)が認可すれば、住民の意向がどうであれいつでもどこでも施設が設置できてしまう。これは、電波行政の制度の不備といわざると得ない、と私は考える。欧州などのいくつかの国では実際に、環境や健康のリスクに対して予防原則をふまえた厳しい基準値を導入したり、電 波・電力設備を居住地から引き離したりしている。スカパーの送信アンテナで使用される電波は14GHz(ギガヘルツ)であり、これまでなされた高周波の生物影響の研究も大半が10GHz以下のものであることから、微弱で長期にわたる14GHzの電波がどう人体に影響するかは、明確に述べることができないと思われる。そうであればこそなおのこと、慎重を期すというのがまっとうな姿勢ではないだろうか。これまで電磁波の調査での蓄積を生かして、私は、自分になしえる範囲での専門的な科学面で、立ち上がった住民の方たちを支援しようと思っている。■
2007年1月発行の「市民科学」第1号 